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子どもの「困った行動」への適切な対応とは?【保育者の関わり講座・理論編②】

青空と山脈
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんのコラム。保育士であれば知っておきたい「気になる子」への関わり方について解説していきます。前回掘り下げた「困った行動」に対する適切な対応について見ていきましょう。

今回は、前回お話した子どもの困った行動の4つの要素(前回の記事参照)のうち、「①これまでの経験」と、「②行動のきっかけ」についてお話しします。
 

 ① これまでの経験

子どもの「困った行動」は、どのような経験から形成されるのでしょう。これについて私は、基本的には「『望み』が充たされない経験を重ねることで『困った行動』が定着する」と考えています。

子どもは、安心したい、楽しみたい、わかりたい、有能であると感じたい、人と関わりたい、自分を見てほしいなどの、人間として当たり前の「望み」を持っています。その「望み」が充たされないと、子どもは「望み」を充たそうとします。

子どもは「望み」を人に伝えることで「望み」を充たすことができますが(「食べられないから取り除いて」と言って嫌いな食べ物を除いてもらう)、「望み」を伝える適切な方法を知らない子どもは、自分にできる方法で「望み」を充たそうとします。それが、前回お話した、(1)要求(2)注目(3)拒否・回避(4)感覚刺激を求めてする「困った行動」です(「食べられないから取り除いて」と言えないので「皿ごとひっくり返す」)。

ここで周囲が、子どもは「望み」を充たすために「困った行動」をしていることに気付かず適切な対応がなされないと、子どもは「困った行動」で「望み」を充たすという経験を繰り返すことになり、「困った行動」が定着していきます。

逆に周囲が子どもの「望み」に気付いて対応してあげると、子どもは「困った行動」で「望み」を充たす必要がないので「困った行動」をしなくなります。

「困った行動」に出会ったら、「どんな『望み』を充たすための行動だろう」という目で観察し、「望み」を見つけて対応してあげましょう。同時に、「望み」を伝える適切な表現方法を教えましょう。

手でバツを作って「嫌」を伝える、ほしいときはお願いのポーズをするなど、「望み」を伝える適切な表現方法を身につければ、穏やかに「望み」を充たすことができ、「困った行動」によって「望み」を充たさないで済むのです。

ところで、子どもの「望み」がわかったとして、それに適切に対応して「困った行動」を抑制するには、その行動がどのような経緯、経験を経て形成されたか、を知ることがとても重要です。

例えば、「夕食前に、大きな菓子パンを食べる」という「困った行動」への「適切な対応」は、その行動がいつ始まったかで違ってきます。

つい最近始まったのなら、一番大事なのは、「その行動を定着させない」ことです。したがって、「すぐに菓子パンゼロ」をめざすのが最適な対応となるでしょう。

一方、その行動が始まってからもう何年も経っているのなら、「すぐに菓子パンゼロ」は困難です。無理をすれば、子どもとの関係の悪化や、子どもが精神的に不安定になったりしかねません。だとしたら「すぐに菓子パンゼロ」は「最適」な対応ではないでしょう。むしろ少しずつ、計画的に「困った行動」を縮小する、例えば菓子パンを少しずつ小さいものにする→菓子パンの代わりにジュースにする→甘くない飲み物に変える、などの段階的なアプローチの方が、その子にとってより適した対応だと考えられます。

子どもの「困った行動」への最適な対応をみつけるためには、その行動の歴史を知ることは必須です。そして、それを最もよく知っているのは、保護者です。
  • この行動はいつから始まったか?
  • どういう場面でそれが起こったか?
  • 誰といるときにこの行動は起きるのか?誰と一緒だと起きないのか?
  • 頻度はどれくらいか?(毎日か、週に2回~3回か?1か月に1回か?など)
  • 「困った行動」の強度や激しさはどの程度か(癇癪や自傷、他害など)
などなど、保護者から話をよく聞いて、「困った行動」の歴史を知りましょう。



 

 ② 行動のきっかけ

子どもの「困った行動」は、「②行動のきっかけ」になる、何らかの刺激(『社会的刺激』及び『物理的刺激』)を受けることで成立します。

『社会的刺激』は、「人」及び「人から発せられるもの(教示、指示、表情など)」です。例えば、「泣くと何でも買ってくれる父親」「歯磨きをしなさいという指示」「不機嫌そうな表情」などです。

『物理的刺激』は、『社会的刺激』以外のすべての刺激です。暑い、寒い、明るい、暗い、騒々しいといった環境要因、のどが乾いた、お腹が空いたなどの身体状況、場所、教材、机や椅子の位置、時間、などもすべて『物理的刺激』です。

「②行動のきっかけ(刺激)」がなければ行動は起きないので、「②行動のきっかけ(刺激)」を調整することで、「困った行動」が起きないようにすることができます。

具体的に考えてみましょう。

例1 「泣くと何でも買ってくれる父親」(=社会的刺激)と買い物に行く度に、泣いておもちゃを買ってくれと要求する(=困った行動)。

「お父さんとは買い物に行かない」ことで「泣いておもちゃを買ってほしいと要求する」行動を起こさせなくて済む。

例2 先生が「〇〇しよう」と提案する(=社会的刺激)と、何でもかんでも「嫌だ」と拒否する(=困った行動)。

例えば「塗り絵をしよう」と提案するとき、好きな塗り絵を選ばせる、塗る面積が小さくて一見してすぐ終わるとわかるような塗り絵を提案する、という形で調整することで、塗り絵をしよう→「嫌だ」とならないようにできる。

例3 部屋に友だちやおもちゃがたくさんあって(=物理的刺激)、落ち着かない(=困った行動)。

個室で、先生とふたりだけで1つのおもちゃで遊ぶようにすることで、落ち着く。

行動のきっかけがわかると、それを調整することで、「困った行動」が起きないようにすることができます。どんな刺激が「困った行動」のきっかけになっているかをよく観察しましょう。
 
冬の自然

以上、前回と今回で子どもの「困った行動」の4つの要素について見てきました。子どもの「困った行動」に出会ったら、それぞれの項目でお話したことを参考にして子どもの行動を分析し、アプローチに役立ててほしいと思います。

ところで、時に、4つの要素を分析して対応してみたがなかなか解決しないことがあります。4つの要素以外の要因があって、そのためにこちらの働きかけが届かず、解決しないという状態です。

その4つの要素以外の要因とは何でしょう?
実はこれ、私たちにも同じことが言えます。集中できない、物事に積極的に取り組めない、それはどんなときでしょうか。何が影響しているのでしょうか。

次回は、その要因Xについて考えていきます。

 
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原 哲也

この記事を書いた人

原 哲也

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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