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どう考える?先生が近づくと逃げてしまう4歳の女の子【方法編】 

どう考える?先生が近づくと逃げてしまう4歳の女の子【方法編】 
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんのコラムです。加配保育士さんへのアンケートで挙がった「気になる子」への関わり方について解説します。>>連載の記事一覧はこちら 

前回に引き続き、加配保育士さんから相談のあった「家ではお話をするのに、園ではひとこともお話をしない美知瑠ちゃんとの関係づくり」を考える「方法編」です。  
  
<前回の記事はこちら>   

 
家ではお話をするのに園ではしない、登園の挨拶のときもお母さんの後ろに隠れる、お部屋でもルミ先生が近づくと逃げてしまう美知留ちゃん。 
 
今回は、これまでの話を踏まえて、ルミ先生が美知留ちゃんと良い関係を築くにはどうしたらいいかを具体的に考えます。 

子どもの「願い」を叶える関わりのための4STEP 

前回、保育士の「願い」ではなく、子どもの「願い」を叶える関わりをするための4つのSTEPとして 

STEP1 子どもの「困った行動」について、いきなり「子どもを」変えようとしない 
STEP2 子どもの「願い」何か、それは叶えられているかという視点から、保育を見直す  
STEP3 自分の関わり方が子どもの「願い」を叶えるものになっているか、を振り返る 
STEP4 自分の子どもとの関わり方、それへの子どもの反応をほかの保育士に見てもらう 

という話をしました。 
 
これに沿ってルミ先生と美知留ちゃんの関わりを点検してみましょう。

子どもの「願い」を叶える関わりのための4STEP

STEP1 子どもの「困った行動」について、いきなり「子どもを」変えようとしない 

 「園では話さない」「ルミ先生が関わろうとすると逃げる」という美知留ちゃんの行動を変えようとしない。つまり、美知留ちゃんに「お話すること」や「逃げないでルミ先生と関わる」ことを求めないことです。  

STEP2 子どもの「願い」何か、それは叶えられているかという視点から、保育を見直す  

 

子どもの行動を見守る保育士

ルミ先生は、美知留ちゃんの「願い」を知るために、美知留ちゃんの様子をじっくり観察しました。すると美知留ちゃんは、静かな声で穏やかにゆっくり関わる保育士とは、小さい声だけれどことばを交わし、リラックスした雰囲気で遊ぶことがわかりました。 
 
ルミ先生は、美知留ちゃんは静かな関わりをしてほしいのだ、静かな穏やかな雰囲気の中で安心したいのだなと思いました。 

STEP3 自分の関わり方が子どもの「願い」を叶えるものになっているか、を振り返る 

ルミ先生は自分の関わり方を振り返りました。 
 
そして、ルミ先生は気がついたのです。 
 
自分は子どもに明るく元気でいてほしいと思って、美知留ちゃんにも元気に、明るく、積極的に関わってきたが、それは、美知留ちゃんの願う関わりと正反対の関わりだった。 
 
だから美知留ちゃんは「安心」できないのだ。そして、美知留ちゃんが「安心」できないことに気づかず、好きでない関わりを続ける自分を美知留ちゃんは「信頼」していない。 
 
だから、美知留ちゃんとの関係が築けないのだと。  

STEP4  自分の子どもとの関わり方、それへの子どもの反応をほかの保育士に見てもらう 

ほかの保育士に自分の保育を見てもらう保育士

ルミ先生は、たまらなくなって、先輩の直子先生のところへ行って「美知留ちゃんへの私の関わり方は刺激が強すぎるのでしょうか?」と聞きました。 
 
直子先生は「そうね。ルミ先生がみんなと大きな声でオーバーアクションで遊んでいるときね、そういう関わりが好きな子は大喜びしているけど、そういう時の美知留ちゃんは、無表情で、少しつらそうなのよね。部屋の隅でひとりで立っていることも多いしね。」  

ルミ先生の関わり方の変化 

子どもの行動を見守る保育士

ルミ先生は、考えました。 
 
「明るく元気に」は自分の信条だ。 

子どもにもそうあってほしいと願うことが間違いだとは思わない。 
 
けれど「明るく元気に」は自分の「願い」であって、美知留ちゃんの「願い」ではない。 

実際、「明るく元気に」では美知留ちゃんの「安心」「尊重」は実現していないし、自分は美知留ちゃんの「信頼」も得られず関係が築けていない。 
 
いくら「明るく元気に」という保育士としての「願い」があっても、関係が築けない相手にそれを伝えることなどできないのではないか。 
 
ここまで考えてルミ先生は、美知留ちゃんの「願い」を叶えることを優先させよう、と心を決めました。 
そして、自分の関わり方を変えることにしました。  

美知留ちゃんの「願い」を叶える関わり方へ 

子どもの願いを叶える関わり方

まず、話し方を変えました。「明るく元気に」のルミ先生は、声が大きく、語勢も強く、ちょっと早口ですし、表情も身振りもオーバーアクション気味です。 
 
けれど、ルミ先生は美知留ちゃんに話しかけるときには意識して、できるだけ穏やかな、優しい声で、ゆっくり話すようにしました。また、美知留ちゃんの前では急な動きやオーバーな身振りを控えて小さな動きにしました。 
 
美知留ちゃんに何か質問するときは、答えをせかさず、じっくりと待つようにしました。 

登園時の挨拶は、お母さんにお話をして、美知留ちゃんに「おはようございます」を求めず、ルミ先生とお母さんがハイタッチをする形にしました。  

美知留ちゃんとの関係に変化が 

大きな声を出さず、小さく手を振る保育士

関わり方を変えて1か月たつと、ルミ先生と美知留ちゃんの関係は少し変わってきました。美知留ちゃんはルミ先生から逃げなくなり、ルミ先生といるときに笑顔を見せたり、笑い声をたてたりするようにもなりました。 
 
そしてさらに1か月たったある日の降園時、お母さんと手をつないだ美知留ちゃんが、玄関を出るとき、くるっと振り向いて「ルミ先生、バイバイ」と言ったのです。 
 
ルミ先生はうれしくて飛び上がりたくなりました。 
 
以前のルミ先生なら、満面の笑顔で大きな声で「美知留ちゃんバイバ~イ!またあしたね~っ」と叫んだでしょう。でもルミ先生はそうしませんでした。 
 
ルミ先生は、ただにっこり笑って、美知留ちゃんに向かってバイバイと小さく手を振りました。  

子どもの「困った行動」は関わり方で変わってくる 

 ルミ先生が「明るく元気に」をつらぬき、関わり方を変えなかったら、どうだったでしょう。 
 
美知留ちゃんは今もルミ先生から逃げていたでしょうし、美知留ちゃんに笑顔はなく、ルミ先生に「バイバイ」と手を振ることもなかったでしょう。 
 
子どもの「困った行動」や子どもとの関係に悩んでいる先生方へ。 

どうか子どもの「願い」に敏感になってください 子どもの「願い」を知ろう、叶えようとしてみてください。 

そこから始めることで子どもとの関係は大きく変わってくるはずです。  

次回のテーマ  

自閉スペクトラム症の診断を受けている恭二君(4歳)はいつも、積み木を積んでいるとき、友だちが少し近づいただけで、「来ないで!」と大きな声で叫びます。 
 
保育士はこの場面をどのようにとらえ、恭二君にどのような声かけをしたらよいか考えてみましょう。 
(次回は2023年2月下旬公開予定です) 

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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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