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発達障害のある子どもに『型はめパズル遊び』を取り入れる方法

型はめパズルが取り入れられた木製遊具
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんの連載コラム。発達障害の子どもとの『遊び』について解説するシリーズの今回は、「型はめパズル」を取り上げます。

型はめパズル遊びの機能

型はめパズルというのは、板にいろいろな形がくり抜いてあったり、凹みが作ってあったりして、そこにぴったり形や色が合うピースを合わせるおもちゃです。立体型と平面型があります。
型はめパズルが取り入れられたボーネルンドの木製絵合わせ遊具
型はめパズルを使った遊びには、主に次の5つの機能があります。

①平衡感覚や触覚、見る力や見分ける力が育つ

型はめパズルをするには、まずグラグラしないで安定して座れること、そして型はめパズルに対してまっすぐ座ることができなくてはなりません。そのためには平衡感覚が必要です。

そして、穴や凹みの形に合った正しいピースを入れるには、穴や凹みやピースの形を見分ける目の力と、手と目とを協応させる力が必要です。

また、「ぽとん」と落ちた感覚、「カチッ」とはまったという感覚は、触覚と固有覚(骨と筋肉の位置と傾きを感じる感覚)という感覚によって得られます。

型はめパズルで遊ぶ中で、これらの「グラグラしないで安定して座る力」「平衡感覚」「形を見分ける視覚機能」「手と目を協応させる力」「触覚」「固有覚」が次第に育まれていきます。

発達障害のある子の中には、これらの力が弱い子どもが多くいます。型はめパズルが「楽しい」、だから「もっとやりたい」と取り組む中でこれらの力を自然に育てていきたいものです。

②手先の器用さが育つ、目と手の協応の力が育つ

型はめパズルで穴や凹みにピースを入れるには、立体型だと「ピースをつかむ」「ピースを持ちながら合う穴を見つけて箱の中に落とす」などの操作、平面型だと「ピースの突起を親指と人差し指でつまむ」という操作が必要です。

いずれの操作も、目と手の協応が必須であり、型はめパズルでこれらの操作を数多く行うことで「つかむ」「持ち続ける」「つまむ」など、子どもの発達にとても大切な動作ができるようになっていきます。

③物の形や大きさを見分ける力が育つ

型はめパズルで遊び始めたばかりの子どもは、穴や凹みと同じ形のピースを見付けて入れるのではなく、手あたり次第にピースを入れようとしたり、はめようとしたりします。

そして多くの試行錯誤を経て、「同じ大きさ」「同じ形」のピースだと、立体型の場合は穴を通って「ぽとん」と箱に落ちること、また平面型の場合は凹みとピースが「カチッ」と入り動かない状態になることに気がつきます。

このような経験は、子どもに、「同じ形」「同じ大きさ」や「違う形」「違う大きさ」という認知力を育てます
型はめパズルが取り入れられたボーネルンドのプラスチック製おもちゃ

④試行錯誤の力、集中力を育む

子どもも最初は、ピースを手当たり次第に穴や凹みに入れようとします。そこで一回、「入れられた」「はめられた」という経験をすると、子どもは、「入った」「はまった」という結果を得ようと一生懸命になります。

どうしたら入るのだろうと考え、手に取ったピースをあちこちの穴や凹みに入れようとする、はめようとする行為は、試行錯誤するという経験になります。また、夢中で熱中する時間を経験する中で集中力が養われます。

⑤コミュニケーションの力を育む

型はめパズルでは、周囲の大人の働きかけ次第でコミュニケーションの力を育むことができます。

自分でピースを選んで目に入った穴や凹みにはめていく、そしていつかはまって「ぽとん」「カチッ」という「入った」「はまった」感覚が得られる。もちろんこの活動にも上記①~④の意義はあるのですが、それは自分の好きにピースを選んで自由にやっているのであって、そこに他人とのコミュニケーションはありません

そこで、子どもに「この穴に合うピースをちょうだい」と言ってみます。

それに応じるには、子どもは自分の「こうしたい」を抑えて「相手の要求に応じる」ことをしなくてはなりません。こうして、いわゆる「周囲との折り合いをつける」力を、大人とのやり取りを含んだ型はめパズルの遊びを通して、育むことができます。

型はめパズル遊びでの関わり方のポイント

型はめパズルで遊んでいる幼児
続いて、型はめパズル遊びでの保育者の関わり方について一つずつ見ていきましょう。

1.型はめパズルに集中できる環境づくり

上述したように、型はめパズルの遊びを成立させるには、座位の安定、視覚機能が必要です。加えて、難しいことに挑戦する訳ですから集中できることも必要です。

そのため、これらに関する環境を整えることがまず必要です。

座位が安定するように足底がしっかりつく高さの椅子を選ぶ、座面に滑り止めをつける、周囲の視覚刺激が気にならないようにパーテーションで回りを囲うなどが考えられます。

2.遊びのやり方や意味が分かるようにサポートする・成功するようにサポートする

初めて型はめパズルをする子どもの中には、型はめパズルの遊び方、楽しみ方がわからない子どももいます。

その場合は、子どもの注意をひきながら、まずはやり方を見せます。ピースのつまみ方、穴や凹みとピースの関係、ピースを入れる様子、はまる様子を見せます。

「ぎゅっ」と言いながらピースを持つ、「じろじろ」といいながらピースの形に合う穴を探す様子を伝える、「カチッ」と言いながら、穴にピースがはまる様子を伝えるなど、オノマトペを使いながら、遊びのやり方を伝えることも効果があります。

最初のうち子どもは、「入らない」「はまらない」イライラする状況に陥りやすいです。中にはこのストレスに耐えられず、ピースを投げたり、型枠を倒したり、投げたりする子どももいます。

このような事態を避けるには、「さりげなく」サポートすることです。

さりげなく合う穴や凹みを教える、平面型ならさりげなくピースをスライドさせて凹みにはまるようにサポートするのです。子どもが、型はめパズルに慣れてきたら、少しずつサポートを減らすことも大切です。

3.ことばかけの工夫をする

立体の型はめパズル遊びができるプラスチック遊具
型はめパズルでは、実に多種多様なことばが登場します。

例えば、この穴とこのピースの形は「いっしょ」「おなじ」、この凹みとこのピースの形は「違う」、「まる」「さんかく」など形の名称、「おおきい」「ちいさい」「ながい」「みじかい」など大きさや長さなどの形容詞などです。

これらのことばを理解して言われていることがわかると、型はめパズルが上手くできるようになります。これは「ことばを学ぶことで遊びが上手になる=子どもにとってことばを学ぶことが有益な状況」であり、それは子どもがことばを覚えるひとつの原動力になります。

周囲の大人のことばから子どもは新しいことばに出会います。

型はめパズルをしながら、ぜひ、子どもの理解に応じてこれらのことばを繰り返し、根気強く子どもに聞かせてあげてください。

4.コミュニケーションの力を育む機会として捉え、関わる

大人の働きかけ次第で型はめパズルの遊びはコミュニケーションの力を育む機会になり得ることは前述のとおりです。

他の遊びでは働きかけになかなか応じてくれない子どもが、型はめパズルでの「これちょうだい」という働きかけには応えてくれることがあります。型はめパズルで子どもの「応じる力」を育むことは、他の場面での子どものやり取りの力の基になります。

周囲の要求に応じる力の芽ばえに気付くためにも、子どものコミュニケーションの力を育むためにも「これ、ちょうだい」というやり取りに挑戦してみてください。もちろん、子どもが要求に応じてくれたら、子どもが喜ぶように「ありがとう」と言うことも忘れないでください。

ただし、大人が「これちょうだい」「あれをとって」とあまりにうるさく求め過ぎることはやめましょう。やり取りが嫌でないか、負担でないかなど、子どもの様子をよく見て、子どもが楽しく遊ぶことを大切にして関わってほしいと思います。

発達的視点からの型はめパズルで注意したいこと

立体型はめパズルで使われるプラスチック製の型
最後に、型はめパズル遊びで注意したいことについて確認しておきましょう。

1.パーツの誤飲に注意する

小さなパーツは誤飲の危険があるので注意しましょう。

2.癇癪に備える

癇癪がある子どもの場合、上手くいかない時に癇癪を起してパーツや型枠を投げつけたりすることがあり得ます。ほとんどの型はめパズルは木やプラステックなど硬い素材でできているので、「型枠は大人がしっかり押さえているようにする」「周囲の子どもに留意する」などの配慮が必要です。

型はめパズル遊びは、発達障害のある子の育ちにも役立つ活動です。ぜひ取り入れてみてください。

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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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