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発達障害のある子どもに『すべり台遊び』を取り入れる目的と方法

すべり台で遊ぶ男の子
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんの連載コラム。発達障害の子どもとの『遊び』について解説するシリーズの今回は、「すべり台」を取り上げます。

すべり台遊びの機能

すべり台を使った遊びには、主に次の3つの機能があります。

①運動能力の向上

遊具の階段を上る男の子
すべり台の階段を上るには、安定した体幹、お尻の筋肉、手すりを握る握力と腕で体を引き寄せる力、足を持ち上げて階段を上る脚力が必要です。

また、滑り降りるときには背筋を伸ばしてお腹に力を入れた姿勢を保つ必要があります。「すべり台を上って滑る」を繰り返すことで全身の筋力や運動能力が育ちます。

②前庭覚、固有覚、眼球運動の力を育てる

身体の姿勢や感覚を掴む「前庭覚」「眼球運動」「固有覚」それぞれの機能と、すべり台遊びとの関連について見てみましょう。

【前庭覚】
滑り降りているときに、重力や加速、バランスなどを感じ取る感覚が前庭覚です。前庭覚の情報に基づいて人は、重力に対する頭の位置や姿勢を垂直に保ち、バランスを取ります。

【眼球運動】
滑っているときに頭が傾いても、眼球の位置を調整する眼球運動が起きて視野が確保されます。眼球運動は、物を見る、動きを捉える上でとても大切な力です。

【固有覚】
固有覚とは、骨と筋肉の位置や傾きを感じ取る感覚で、前庭覚からの情報に基づいて固有覚を働かせることで、適切に身体をコントロールし、スムーズな動きができます。

すべり台を上手に滑るためには、前庭覚の情報に基づく固有覚の働きによって、階段の段差で足をどれくらい上げるか、滑り降りるとき手や足をどこに置き、傾きやスピードに対してどのような動きや力加減をするかを調整することが必要です。

すべり降りる感覚とスピードは、子どもたちにとってたまらなく楽しいものです。その楽しさを求めてすべり台で繰り返し遊ぶことで、前庭覚、眼球運動の力、固有覚を育てることができます。

③ルールの理解

雪が積もった公園のすべり台
すべり台で遊ぶには、「順番を待つ」「前の人が滑り終えてから滑り出す」などのルールを理解し、守る必要があります。

すべり台遊びの活動を通して、ルールの存在やルールの理解、ルールを守る経験を積むことができます。

すべり台遊びのサポートのポイント

これらのすべり台遊びの機能を踏まえて、保育者がサポートする際のポイントを3つの視点から見ていきましょう。

①運動能力へのサポート

室内で運動をする女の子
発達障害のある子は、体幹が不安定、筋緊張(筋肉の適切な張りや調整)の問題、手すりを持つ力が弱い、手すりに触れることが苦手などの理由で、すべり台遊びを嫌がったり怖がったりすることがあります。

このような場合は、子どもにいきなりすべり台遊びを強いるのは避け、まずは他の活動で体幹と運動能力を作ることを考えます。

例えば、室内で低い箱や階段を上り下りする、布団を重ねた山を四つん這いになってよじ上る、などの活動をします。四つん這いの姿勢は、すべり台の階段を上るとき、手すりをもって手や足を交互に動かす動きや手で身体を支える動きの土台になります。

肩車も手、足、体幹の力をつけるのに有効です。抱っこからおんぶ、最初は子どもが手で身体を支えながらの肩車、そして慣れてきたら子どもが手を離しての肩車に移行します。

また、綱引きのようにロープを引っ張る活動も良いでしょう。

②前庭覚や固有覚、眼球運動へのサポート

足と手でブレーキをかけながらすべり台を降りる男の子
発達障害のある子の場合、前庭覚の過敏または鈍麻が見られることが多くあります。前庭覚が過敏だと、高さやスピード、予期せぬ傾きへの恐怖を感じてしまいます。逆に鈍麻だと、傾きやスピードなどの刺激を受け取れず、その結果、前庭覚からの情報に基づいて適切に身体のバランスを取ったり、眼球を動かすことなどができにくかったりします。

また、固有覚が上手く働かないために、傾きやスピードに対して適切な身体の動きのコントロールができない、スピードが出た状態から上手に着地できないといったこともあります。

スピードが出た状態から上手に着地するには、すべり台の縁を掴んだり、すべり台の側面に足を押しつけるなどしてブレーキをかけますが、発達障害のある子の場合、握力が弱かったり、すべり台の縁の触覚が嫌、固有覚が上手く働かなくて足をすべり台の側面につけることや力加減が難しいなどの理由から、上手くブレーキをかけられないことがあります。

これらの感覚的な課題があると、すべり台遊びを嫌がったり怖がったりしがちですし、時に、けがをすることもあります。そのような場合は、次のような活動による感覚の問題へのアプローチを考えます。

●前庭覚を育てる(「シーツ遊び」など)
子どもをシーツに乗せ、大人2人でシーツの両端を持ちます。そして、床から持ち上げずに子どもを前後に動かしたり、左右に揺らしたりします。

この状態での揺れやスピードを怖がらずに楽しめるようになったら、動かすスピードを少しずつ速くする、揺れを大きくするなどして前庭覚の刺激に少しずつ慣れるとともに、傾きに対して身体を動かしてバランスを取る経験を積み上げます。

段ボールに子どもを座らせて押し、スピードを徐々に上げていく遊びも同様の効果が期待できます。

●固有覚を育てる(「雑巾ウォーク」など)
雑巾の上に体育座りの姿勢で座り、手をお尻の後ろに置いて、身体を支えながら足を延ばしたり縮めたりして前に進みます。この活動は、手足の力、体幹を支える力を育てます。また、スムーズな力の入れ方、手や足などの身体の位置や動きに対するいわゆるボディーイメージ(身体図式)などの固有覚も育てることができます。

●すべり台の上り降り
その他、すべり台を下から上り降りする遊びも良いでしょう。繰り返しすべり台の途中の低い位置まで上り下りすることで、怖くない状態で前庭覚に刺激が入る感覚、固有覚を使う感覚を育てることができます。

③待つなどのルールを理解する・待てずに押すなどの行動を予防するようにサポートする

庭のデッキに置かれたフラフープ
すべり台遊びでは、順番を待てずに他児を押すなどのトラブルが起きがちです。順番を待つというルールを理解していなかったり、ルールは分かっているものの衝動性が高く、待つことが難しい場合、すべり台にしか意識が行かず人を押しのけてしまう場合もあります。

このような場合、まず「順番に滑る」というルールを分かりやすく伝える工夫をします。例えば、少し離れたところからすべり台の階段下までフラフープを並べ、一つのフラフープに子どもが一人ずつ入り、すべり台の階段に一番近いフラフープの子が階段を登り、滑り終わったら他の子どもは次のフラフープに移動するようにします。

階段に一番近いフラフープは「次に滑る番」であることが分かるように、フラフープの色を変えるなど、目立つ工夫をするとより分かりやすいでしょう。

こうすることで、どこで待ったら良いか、誰が次に滑るか、がはっきり分かり、「順番に滑る」というルールが子どもにはっきり伝わります。また、フラフープの距離を少し離せば、前の子どもを押す行動も防げます。

順番に滑ることが分かっていても待つことが苦手な子の場合は、日常生活の中で「待つ経験」を積むことを考えます。

例えば、ジュースを注ぐとき「5つ数えて待ってね」と言って、数えている間に注ぎきり、「よく待っていたね」と声をかけます。

また、平均台などに乗る順番を決めるとき、はじめは1番目、次に「待っててね」ということばがけをしてちょっと待つ時間がある2番目、その次には3番目にする、といった方法なども有効です。サイコロを順番に投げて遊ぶ双六なども、待つ経験を積むのに良い活動です。

発達的視点からのすべり台遊びで注意したいこと

すべり台の階段を上る男の子
階段を上る際に手を離して登ろうとする子どもには、必ず保育者が手を添えるなどのサポートをします。

急なすべり台は、滑り降りる際にバランスを崩して頭を打ったり、ブレーキがかけられない、足を踏ん張れないといったことが原因でけがをする可能性があります。けがのないように十分に配慮したいものです。

また、真夏にすべり台が熱くなって火傷する、冬に凍結して階段が滑る、といったこともあるので、すべり台の状態の事前確認は常に心掛けたいです。
すべり台の前にたたずむ小さな子供
上記のようなさまざまなサポートを行っても、すべり台遊びを嫌がる子どもはいます。

そのような場合はどうするか。

「遊び」は「①自分から②満足するところまで③楽しむことができる」ものでなくてはなりません。子どもが嫌がるなら、すべり台遊びを強要することは避けてください。

すべり台遊びは、発達障害のある子の育ちにも役立つ活動です。ぜひ取り入れてみてください。

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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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