「困った行動」を分析しても解決しないこと、ありませんか?
前回までのコラムでは、子どもの「困った行動」の4つの要素についてお話ししました。しかし、時に4つの要素を分析して対応してみても解決しないことがあります。
「4つの要素以外の要因」が何かあるのです。今回は、「困った行動」への対応を阻む「4つの要素以外の要因」について考えていきます。
「困った行動」が解決しない実際のケース

外あそびの最中、奇声を上げ続けるAくん(5歳)。まだおしゃべりができないAくんは嫌なことがあると奇声をあげることがあるのですが、それにしても今日はかなりの頻度です。
いつもは外あそびが大好きなのに、今日はずっと奇声をあげ続けています。
保育士は考えます。Aくんの奇声の「理由」は何だろう?
要求?注目?何かの活動への拒否?感覚刺激がほしい?奇声をあげることでAくんは何を得ているか?何が奇声のきっかけになっているのか…?
Aくんの望みをいろいろと想像して対処します。しかし、対応する保育士が変わっても、活動を変えてみても奇声を制止せず、好きなだけ声を出させても状況は変わりません。
熱はない。頭から順に身体を触ってチェックしますが、傷などはないし痛がる様子もありません。最後に靴を脱いでもらったところ「あっ…!」靴の爪先に小石が入っていたのです。
これが当たって痛かったのかも? そう思い小石を取ると…大当たり! Aくんはいつもの様子に戻り、奇声はなくなりました。
「困った行動」に影響を及ぼす外的な要因とは?
この例では、Aくんの望みは「小石が当たって痛い。取り除いてほしい」でした。このような場合には、いくら子どもを観察し、「困った行動」の分析をして対応してみてもうまくいきません。このように、「困った行動」を成り立たせる4つの要素以外で、「困った行動」に影響を及ぼす要因を「状況事象」と言います。
「状況事象」は、内容(生理的要因、物理的要因、人的環境要因)と、いつの要因か(過去要因、併存要因、未来要因)によって分類されます。
生理的要因 | 物理的要因 | 人間的環境要因 | |
過去要因 | ・朝、母親に叱られた ・1時間前に喧嘩した ・他児から無視された ・意地悪された ・やりたいことを阻止された |
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併存要因 | ・腹痛、頭痛、怪我などの痛み ・のどの渇き、空腹や満腹 ・睡眠不足や疲労 |
・騒音 ・高温 ・多湿 ・部屋の広さ ・気になる物品の存在 |
・嫌いな人の存在 ・好きな人の存在 ・適度なスケジュール ・関わり方の違い ・声掛けのタイミング |
未来要因 | ・天気予報 | ・難しい課題の後に好きな課題がある ・夕食に好きなものが用意され ている ・怖い父親が帰宅する ・プレゼントをもらえる |
『行動障害の理解と援助』(2000年/長畑正道ら編著 コレール社P107 より引用改変)
「状況事象」に対応する方法
「状況事象」は「困った行動」に影響します。そして「困った行動」は継続すると固定化しやすく、変えにくくなります。ですから、「困った行動」に影響する「状況事象」には適切に対応し、「困った行動」を予防し減らしていきたい。そうして、子どもが「自分が好き」「人が好き」と感じられるようにしてあげたいのです。
「状況事象」のうち、痛みや騒音や部屋の中のモノが気になるといったことは、すぐに対応できることなので、是非すぐに対処してあげてください。
次に友だちとの関係が「状況事象」になっているな、という場合。例えば友だちがたまたまぶつかったのを「意地悪された」と受け止めて、嫌な気持ちになっているのなら「意地悪じゃないよ、ぶつかっただけよ」と話して、嫌な気持ちを解消するなどの対応ができます。
園と保護者が協力して解決したい「状況事象」ケース
しかし「状況事象」の中には、園だけでは対応できない、家庭と協力しなければ対応できないものもあります。- 朝食を食べてこないので空腹でイライラしている
- 就寝が遅いので朝起きられず、不機嫌なまま登園する、慢性的に睡眠不足
- 他の家族から相手にしてもらえない
- 養育者から激しい叱責を受けている
このような「状況事象」に対しては、まず①家庭でそのような状況があるのかを把握する②状況改善に向けて保護者との協力体制を築くという、2つのことが必要になります。
と言うのは簡単ですが、なかなか難しいこともあります。家庭の状況を話したがらない家族もあるでしょうし、早寝や朝ごはんなどは、保護者が「頑張らないとできない」ことなのでなかなか実行してくれない、実行しようとは思うが、実際には続かないこともあるでしょう。
家庭のことに口を出されたと不快を示す保護者もいるかもしれません。でも、そういう場合にもできることはあります。
解決策1
「その家庭」への注意として話すのではなく、お便りや「園長先生のお話」などで全体に向けて朝食や睡眠の大切さを伝えることもできるでしょう。保護者が厳しい養育態度であっても、保育園で自分が認められたと子ども自身が感じられることばがけをすることで、子どもを支えることはできます。
解決策2
わかってはいるが、どうしても早寝や朝ごはんを続けられないと保護者が悩むのであれば、いい方法を一緒に考えてほしいと思います。発達障害のある子の家庭の保護者はすでに「いっぱいいっぱい」なことも多いのです。「早寝」「朝ごはん」を指摘されると「責められた」と感じて苦しむ保護者もいます。
そこは保護者の性格や状況を見極めながら伝え方を考える必要がありますが、基本として「一緒に」いい方法を考える、という姿勢が大切かなと思います。子どもを支えるには保護者を支えなくてはならない。これは私が、多くの発達障害のある子の保護者と関わる中で痛感してきたことです。
「困った行動」の4つの要素×「状況事象」を常に意識する
このことを、園をあげて発達特性のある子に限らず、すべての子どもに対して行うことで、全ての子どもが豊かで生き生きと生活できる、生活全般の中で「自分が好き」「人が好き」という経験を積み重ねられるようになる、私はそう思っています。

さて次回からは、再び具体的な事例を取り上げていきたいと思います。以前実施した「園でのお悩み」アンケートの中から「トイレへの移動時、他児を押す、ふざける」事例を取り上げます。

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