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発達障害がある子と“ルールのある遊び”、どう対応する?【保育者の関わり講座】

花畑の景色
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんのコラム。保育士であれば知っておきたい「気になる子」への関わり方について解説していきます。
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前回までのお話「子どもの困った行動の“解釈”と“具体的行動”」

前回と前々回では、子どもの行動を「解釈」して問題とするのではなく、「具体的行動」に読み替えて考えて対応することが大切である、というお話をしました。

クラスでルールがあるゲームをするときの“困った行動”

さて、今月は「クラスでルールがあるゲームを始めると、一人だけ止めて『違う遊び』を始める」ケースです。

いつものように、仮説を立て、4つの要素(これまでの経験、きっかけ、行動の理由、得られるもの)に沿った分析をしてみましょう。

「ルールのあるゲーム」を「フルーツバスケット」ということにして考えてみます。
「Bくんはクラスでルールがあるゲーム(フルーツバスケット)を始めると一人、止めて違う遊びを始める」のはなぜか、どう対処したらいいかということです。

私は次の3つの仮説を考えました。

仮説1
Bくんは「フルーツバスケット」に参加したいが、説明が難しくて、ルールが理解できないので参加できない 
●これまでの経験:今までもいろいろな活動に参加したが、ルールの説明が難しかった。 楽しくなかった。
●きっかけ:先生が「フルーツバスケット」のルールの説明をする。 
●行動の理由:違う「遊び」を始めることで「フルーツバスケット」を「拒否・回避」できる。
●得られるもの:ルールがわからない「フルーツバスケット」をするというストレスからの
自由、他の「わかる」遊びをすることができる
●対応:写真や絵でやることを視覚的に提示する。簡単に理解でき、簡単に参加できるゲー
ムを設定し、みんなで楽しむ経験 をする。


仮説2
Bくんは活動に参加したいし、内容もわかるが「フルーツバスケット」の次にどんな活動をするのかがわからないので不安。
●これまでの経験:前にゲームの後、大嫌いな身体測定があり、パニックになった経験あり。
●きっかけ:次の活動の提示がないまま、「フルーツバスケット」が始まる。
●行動の理由:「フルーツバスケット」から離れることで、次の活動への不安について考え
る行為と「フルーツバスケット」への参加という2つの行動を行うストレスからの「回避」
●得られるもの:2つの行動を行うストレスからの自由、安心感
●対応:一日の活動の流れをBくんがわかるように明示する。Bくんが「次は何?」と聞けるように、ことば、サイン、シンボルなどを使えるように支援する


仮説3
Bくんとしては、活動に参加したいし、内容もわかるのだが、フルーツバスケットの時の騒ぎの音が耐えがたい。
●これまでの経験:フルーツバスケットのとき、嫌な刺激(騒音)の経験が積み重なって

●きっかけ:フルーツバスケットをやろうと誘われる。 
●行動の理由:その場から離れることで「フルーツバスケット」への参加を「拒否・回避」
できる。
●得られるもの :「フルーツバスケット」時の騒がしさから離れ、静かな環境が得られる。
●対応:少ない人数でのフルーツバスケットを提案する。通常のフルーツバスケットと静
かなゲームと両方を提案し、Bくんに活 動を選んでもらう。うるさかったら「見学す
る」「少し離れる」をしてもいいことにする。


「ルールがある遊び」と発達障害がある子の参加についての考え方

虹がかかった景色
発達障害のある子について、
  • ルールのある「遊び」に参加できないが、参加するようにうながした方がいいか? 
  • その子が理解できるような簡単な「遊び」にして、他の子どもを参加させた方がいいか? 
というのは、講演会や研修会でよく聞かれる質問です。

そこで今回は「発達障害のある子のルールのある『遊び』への参加についての基本的な考え方」についてお話しようと思います。

そもそも「遊び」とは何か?

「遊び」の定義はいろいろありますが、つまるところ、
①「自発性(自分からすること)」
②「自己完結性(満足するまですること)」
③「自己報酬性(「楽しい」という感覚など自分に報酬を与えること)」

の3つに集約されると思います。
「遊び」とは、①自分から②満足するところまで③楽しむものなのです。

このようなものである「遊び」を通して、子どもは、社会で生きていくために必要なことの多くを学びます。例えば、このようなことです。
  • 体を動かして遊ぶことで体力・運動能力が向上する
  • たくさんの友だちと遊ぶことでコミュニケーション能力や協調性や社会性を養う
  • 「遊び」がうまくいくようにするために、創造性を働かせたり、試行錯誤したり、妥協したりする中で、様々な状況に対して柔軟に対応できるようになる
  • 社会生活や学習においてとても大切な、自己抑制力を獲得する
そして子どもが「遊び」からこれらを学ぶことができるのは、「遊び」が①~③の要素を充たすものであるからなのです。

逆に言えば、子どもが「遊び」から学ぶために、「遊び」は①~③の要素を満たすものでなくてはならない。

それならば、私たちは、子どもがそのような「遊び」ができるよう支援し、子どもにそのような「遊び」を補償しなくてはなりません

「遊び」の定義から、Bくんの例を検討する

ところで上記の「遊び」の定義からすると、Bくんを強制的にフルーツバスケットに参加させたとき、Bくんにとってフルーツバスケットは「遊び」とは言えません。

フルーツバスケットのルールが理解できないなら(仮説1)、Bくんは楽しくないし、満足もしない。そもそも嫌がっているので自分からしようともしていない。仮説2、仮説3の場合も同じです。

ではBくんが理解でき、楽しめる活動をみんなですればよいのでしょうか。

これも答えはNOです。それだと他の子どもは、楽しくなく、満足しないし、自発的に「やりたい!」ともなりません。それは他の子にとって「遊び」ではありません。

他の子どもにとっても3つの要素を満たす「遊び」が大切である以上、他の子にも3つの要素を満たす「遊び」を補償しなければなりません。

どの子にも3つの要素を満たす「遊び」を補償する、それは難しいことです。

しかし、いつもいつもそうはできなくても、3つの要素を満たす「遊び」を補償するという「めざすもの」を確認すること。そして、これからお話するような支援や子どもの「遊び」の中での適切な仲介を通じて実際の状況に応じて、なんとかして「その状況をめざそうとすること」がとても大事だと思います。
花畑の景色

まず、子どもが安心できるようにする

さて、では「ルールのある遊びへの発達障害のある子の参加」について、具体的に何を考えどうすればいいのでしょうか?

まず、最初に考えるのは「子どもが安心できるように環境を整える」ことです。

「遊び」を楽しむには、まず、安心できていなければいけません。安心できない状況では「遊び」どころではありません。

子どもの様子をみて、「安心できないのはなぜか」を考えます。次のようなところをチェックします。
  • 「わからない」のではないか?
「わからない」と「不安」ですが、「わかる」は「安心」につながります。「わかる」ように伝えてみましょう。発達障害のある子の場合、「目で見るとわかる」ことがよくあります。

ゲームのルールそのものがわからないなら、ゲームのルールを絵で示す、スケジュールがわからなくて不安ならば見てわかるようにスケジュールを示すようにします。
  • 感覚過敏による不快感があるのではないか?
聴覚や視覚の感覚過敏のある子がいます。そういう子どもであれば、嫌がる活動の中に嫌がる刺激がないかを見ます。

聴覚過敏がある場合は、仮説3のように活動する人数を少なくする、椅子の音が嫌ならば椅子の脚にカバーをして防音するなどの工夫ができます。このようにして安心できるように環境を整えることで、「遊び」に参加できる場合があります。
  • 「遊びの指向性」と「対人指向性」の軸で考える
次に「子どもの「「遊び」の指向性」と「対人指向性」の軸で「遊び」を考える」ことをします。

来月は、最後にご紹介した「『遊びの指向性』と『対人指向性』の軸で考える」ことについて、お話します。

 
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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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