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都市型保育園で自然活用をするには?東京都版保育モデル活動報告会レポート

講演する汐見稔幸先生
2020年2月22日、TKP市ヶ谷カンファレンスセンターにて「自然を活用した東京都版保育モデル活動報告会」が開催されました。この報告会では、都心部の身近な自然環境を活用して保育を行う園をモデルとして、各園の活動報告や有識者によるパネルディスカッションが行われました。今回は、その様子をレポートします。

保育のプロによる報告会

今回開催された「自然を活用した東京都版保育モデル活動報告会」では、公募により選ばれた3つの園が行った“自然を活用した保育”について、その活動の様子が報告されました。自然環境が限られる都市型の園を始め、異なるタイプの園での検証により、自然を活用した保育の実践モデルを考えていくプロジェクトの一環として開催。総括のパネルディスカッションでは、保育のプロが揃いました。

【登壇者】
  • 汐見稔幸先生(日本保育学会会長)
  • 関山隆一先生(NPO法人もあな自然楽校理事長)
  • 宮里暁美先生(お茶の水女子大学教授)
  • 内田幸一先生(信州型自然保育認定園 野あそび保育みっけ 園長)
  • 野村直子さん(new education LittleTree代表)

小池百合子都知事による挨拶から始まり、公募で選ばれた3つの園による活動報告へ。

今回選ばれたのは、荒川区にある南千住七丁目保育園、清瀬市にあるせせらぎ保育園、練馬区にあるまちの保育園小竹向原

それぞれ環境が異なる3園では、どのような活動が行われていたのでしょうか。その様子が、動画や写真を交えながら報告されました。




自然を活用した活動を行った3園による報告

※写真はイメージです
3園の活動には、new education LittleTreeの代表を務め、森のようちえんの活動に携わる野村直子さん(コラム連載でお馴染ですね!)が加わってサポート。

ひとつめの園は、自然環境が周囲に少なく、公園での遊びは遊具が中心だったという「南千住七丁目保育園」。ここで勤務する保育士さんたちは、最初は自然を活用した保育の中で子どもたちのどのように声をかけていいいのか戸惑っている様子でした。

しかし活動を進めていくにつれ、自然の中では子どもたちが自分でやりたいことを見つけて遊ぶことができるという気付きが。徐々に、保育士さんも一緒になって遊びを楽しんでいる雰囲気が伝わってきました。

ふたつめの園は、園庭が充実しているため基本的には園庭での活動を行っていたという「せせらぎ保育園」。レポート動画の中では、振ると穂先の種が舞っていくすすきを見つめたり、霜柱に気付いて立ち止まったりするなど、自然の様子に興味を示す子どもたちの姿が。また、活動を進めていく中で今まではスコップを使って掘っていた土を木の枝で掘るなど、思考を存分に活用している様子もありました。

活動の最後には、保育士と子どもが輪になって座り「今日は何をした?」と、振り返りが行われます。ここでは、「今日はこんなことしたよね」「楽しかったよね」と話すことで、子ども同士の共感が生まれていくのですね。
※写真はイメージです
最後は、普段から自然を使った活動に力を入れていた「まちの保育園小竹向原」。「対話」「待つ」「子どもが第一発見者」ということを大切にして保育を行っているという園では、子どもと常に対等の立場必要以上の声かけをしないようにしているそうです。

レポート動画でも、子どもの活動が始まるとともにそっと後ろに引き、見守る保育士さんの姿がとても印象的でした。

また、遠近法で遠くに見えるお友だちの姿を見た女の子から、「人が小さく見える」という声があがります。広々とした自然の中で活動していくうちに、空間把握を自然に身に着けていく子どもたちの力に驚きました。

環境が異なる3園の活動を見て感じたことは、子どもの本来持っている力の素晴らしさ。最初は自然で遊ぶことに慣れていない子も、次第に自分の興味や関心のままに動き、さまざまなことを吸収していくのです。子どものこのような姿を見られるのは、自然の中ならではかもしれませんね。

有識者によるパネルディスカッション

園による報告が終了すると、有識者によるパネルディスカッションが行われました。

まずテーマは、「保育に自然を活用することで得られる効果、重要性、意義」について。

内田先生からは「子どもたちの中にはたくさんの力がある。自然を活用した保育の中ではその力が発揮しやすい」という意見が。また、「創造性や共感性、主体性が育つ有効的な資源だ」と関山先生。
宮里先生からは、「自然とは『感じる、驚く、伝えたくなる』ものであり、子どもたちが『したくなる』活動をとめないでいるといろいろな物語が始まり、可能性が広がる」と、園長を務める「お茶の水女子大学こども園」での様子を見て感じていることに繋げたお話しが。

実際に活動のサポートをした野村さんからは、「自然の中に入ると心地よいことだけではない。だからこそより自分と向き合う時間になる。大人が整えて体験できることだけではない、いろいろな体験が待っている」と自然の大きさを踏まえたお話しがありました。

最後に汐見先生が、「今は五感のうちの目と耳を使ったものが多いが、自然の中では五感を活性化させられる」と総括。目で見て楽しむだけでなく、音を聴いて、触れて、においをかいで楽しめるのは自然の醍醐味かもしれませんね。

また、今回は「東京都版保育モデル」ということもあり、2つ目のテーマは都市部での自然を活用した保育の実践ポイントでした。

「大切なことは子どもがどう気付くか。これは保育士の関わり方の問題であり、都市部ではできないということはない」と内田先生。関山先生からは「目的の場所へ行くまでのプロセスも大事。計画外の状況が素晴らしかったりする」。それを受けた宮里先生からは「自然だけでなく、道中に出会う車など、すべてのものがかけがえない」というお話しがありました。
野村さんからは、「都市部に住む大人は余裕がないように感じている。自然っていいねと余裕を持ってもらうことで、子どもと関わる余裕もできてくるのではないかと思っている。“お散歩子育て支援”をしたい」と新しい取り組みへの考えも述べられました。

最後に目指すべき都市部での保育の姿」についてのお話しでは、「イギリスでは、子どものために申請すると道を封鎖できる条例がある。一緒になって子どものための街づくりができたら(関山先生)」と、海外事情も踏まえた意見が出ました。

汐見先生は、高齢者の増加や孤独死問題にも触れながら、「高齢者が出てきたくなるような場所を作っていかないといけない。例えばバスが迎えに来てくれる、夕方になるとご飯が食べられる、とか。そういう場所はどこ? 保育園だよというように」と、保育と高齢者の繋がりの大切さを語ってくれました。

保育者の皆さんの中でも、なんとなく「自然はいい」と感じている方も多いかもしれません。子どもたちにとってどんな良いことがあるのか、そして今ある環境の中では何ができるのかと考えてみると、自然の本当の魅力が見えてきそうですね。

自然と保育の関わりを考える

今回の報告会では、実際の園の報告や有識者の方々のお話しなどから、分かりやすく自然を活用することの魅力を感じることができました。「都市部だからできない」と諦めずに、ある環境の中でできることを見つけ、子どもたちの力を引き出していきたいですね。

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