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「保育現場のプロフェッショナル」宮里暁美先生に訊く!子どもの主体性を引き出す保育環境設定とは【Vol.1】

お茶の水女子大学教授の宮里暁美先生
お茶の水女子大学の教授として、また認定こども園の園長として、保育の第一線で活躍されている宮里暁美先生。保育所保育指針の改定後、環境設定や子ども主体の保育など、現場での実践で課題を感じている方も多いと思います。その点について、今一番お話を伺いたい人ではないでしょうか。第1回目は、子どもを主体にした物的・人的環境の作り方や、一斉保育の中での保育のポイントなどについてお聞きしました。

子どもによる変化を見逃さない

保育を行ううえで、環境設定は大切ですよね。子どもの主体性を引き出すような環境を作るにはどうすれば良いでしょうか。

私は、“子どもが関わって変化するもの”を見逃さないことが大切だと考えています。例えば、子どもたちが遊ぶ場所に積み木を置いたとします。でも、それを子どもがバラバラとひっくり返したとしたら? そこには何かそうさせるものがあったんだな、と思い、バラバラっとすることを一緒に楽しみます。そこから保育を始めていく、という感じです。

大人が先に未来を想定してものを出すわけですが、その環境を子どもがどう感じ取ってどう動いたのか、そこが環境設定のスタートだと思います。

子どもが動いたときをスタートとすれば、「なるほど、ここが居心地がいいんだな」「ここで使うかと思ったけれど、こっちに持ってくるんだな」など、いろいろ見えてきますよね。

環境設定のポイントは、子どもがどう動くのかをよく見ることです。

もちろん、“何をどこに置くのか”という設定も大切です。そこで私が考えるのは、“一種類にしない”ということ。

10人子どもがいれば、10個あればいいのかというと…実はそれでも全部欲しい子が出てくるんです。それよりも、いろいろな種類のものが2,3個ずつある方が、それぞれの「おもしろい」を見つけられる子どもたちになっていきます。多様であることが重要ですね。

また、おもちゃはできるだけ見立てられるものの方が良いと思います。スポンジだったらケーキにもなるし、洗濯もできるし(笑)。でも、ケーキの形のおもちゃは、ケーキにしかならないですよね。

子どもの遊びが広がるようなおもちゃがいいのですね。私が見た光景では、積み木を見立て遊びに取り入れている子が多くいました。

それはすごく大切なポイントです。中には、積み木はここで遊ぶ、おままごとはここで、と整理してしまう保育者もいます。でも、できるだけそれをせず、子どもがさまざまなものを持ち込んだり思いがけない使い方をしているのを大事にしてほしいと思います。

そこに、その子なりの目の付け所やこだわりがあるので、それを一緒におもしろがる。そうすると、子どもはどんどん自分で考えていろいろなことをするようになっていきます。

もちろん、何でも「いいよ」というわけではなく、そこに子どもが表現したい大事なものがあると感じたときに、子どもの動きを見守ってみてください。

子どもの一歩を大切に

環境設定の中には、自然との関わりも含まれますよね。

自然との関わりについては、子どもの一歩を大切にしたいと思っています。例えば、落ち葉1枚でも、保育者がはいはいってみんなの手の上に乗せてしまったら、その子の一歩にはならないんです。

なにかに出会って、子どもの心がふと動いたときに手を伸ばしたり、においを嗅いだりする。出会うのは、子ども自身ですね。ゆっくりと出会っていくことを小さい頃から大切にしていると、自然を取り込んで遊ぶようになっていくかな、と感じています。

人的環境についてはいかがでしょうか?

私は幼稚園に長くいたので、今こども園にいると「大人の多い保育だな」と思うんです。人がいる良さもありますが、マイナス面もある。大事なのは、大人がどのような価値観や保育観を持っているかだと思います。

注意や安全への配慮ももちろん大切ですが、みんながキリっとしていたら窮屈です。役割分担で穏やかに遊ぶ人もいれば、先の見通しを持つ人もいるというのはとても良いチームワークだと思います。

厳しい保育者がいると、のんびりした保育をしていてはいけないんじゃないかとみんな頑張ってしまいがちです。そのあたりは、保育者がどれだけ穏やかな心や子どもと近い気持ちを持てるのか、ということが重要ではないでしょうか。

具体的な場面で言うと、保育士さんが悩みがちな「イヤイヤ期」の関わり方も、子どもの主体性を大切にするという意味では人的環境の部分ですね。

子どもがイヤイヤしているときは、気持ちがぐちゃぐちゃになっているときです。それを分かったうえで子どもが選択できるようにするとか、第3の道を探すとか、気持ちを受け止めてみてください。

イヤイヤしている子にイライラしても、いいことはないんです。イヤイヤに対してイライラしてしまいがちですが、「イヤイヤ」というのは子どもの感情なので、そこに大人も一緒に感情的になってしまったら、感情と感情がぶつかるだけです。

じゃあ、どっちが大人かと言うと、もちろん大人が大人なので(笑)。深呼吸をして、気持ちを楽にするとか「何とかしなきゃ」と思いつめないことです。そして子どもを追い詰めないこと。もちろん自分自身も。

対応する人が交代するとか、ちょっと違う場所に行くとか、状況を変えることで落ち着くこともあります。だから、園にはさまざまなタイプの先生がいることや、協力体制が大切。なにか気持ちを変えるチャンスを子どもは欲しがっているので、そのきっかけを静かに待ってみてくださいね。


子どもが関われる要素はどれだけある?

宮里 暁美(みやさとあけみ)
国立大学法人お茶の水女子大学 人間発達教育科学研究所教授 兼 文京区お茶の水女子大学こども園 園長。
子どもの姿に「耳をすますこと、目をこらすこと」を心がけ、30年以上、保育の現場や保育者養成に従事。2016年4月より現職。著書・監修に『子どもたちの四季』(主婦の友社)、『0-5歳児子どもの「やりたい!」が発揮される保育環境』(学研)など。3児の母。

今は高架下の保育園や、マンションの1階部分を使った園など、限られたスペースで運営しているところも増えていますね。

私自身、限られたスペースで運営している園にいることがありました。そしてそういう状況を受け入れたうえで、なにかできるかを考えてきました。

小さな植え込みひとつでも、そこに土があれば子どもは掘るし、掘れば虫も見つかります。できる努力は無限にあります。なにをどこに置くのかは、子どもが関わることを想定しているかいないかでまったく異なります。

「それはできないよね」「しょうがないよね」ではなく、今の環境で何か工夫できることはあるかな、と考えることが大切だと思います。

お茶の水女子大学こども園では、車いす対応で廊下が広くなった分、実は園庭が狭くなってしまったんです。でも、この廊下をもうひとつの保育スペースと考えると、非常に良い使い方ができるようになりました。

最初にこども園を作ったときには想定しなかった環境の使い方が、子どもと過ごしながら思いつくことがあるんです。限られたスペースでも子どもたちが良い時間を過ごせるように、と、少し発想を変えてみるときっと何かできることが見つかると思います。

今ある環境の中で、できることを見つけていくのですね。

そうですね。子どもたちは「できない」と考えない人たちです。「今できること」だけで生きているんです。でも保育者は、さまざまな経験をしているので「あんなふうだったらできるんだけれど…」とできないことを数えてしまう。

今できることの中でいかに生きるかという歩み方をして、初めて子どもとレベルが合うんですよ。実は子どもの方が上をいっているみたいですね(笑)。

場所がないからと諦めず、さまざまな可能性を探してほしいですね。

今回は、環境設定のポイントと大切さについて知ることができました。次回は、「一斉保育の中でどう子どもの主体性を引き出すのか」についてのお話しをご紹介します。
   
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