借り上げ社宅制度とは
「ひとり暮らしをしたい!」「でも生活費も不安だし、何より家賃が高い…」上京を考えている保育士さんの中には、そんな不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。東京都の家賃は多くが平均7万円以上、区によってはワンルームや1Kでも10万円ほどのところもあります。しかしそんな悩みを解消する、とてもうれしい制度があります。それが“借り上げ社宅制度”。正式には「保育士宿舎借り上げ支援事業」と言い、国や自治体、事業所が保育士の家賃の費用の全部または一部を支援し、働きやすい環境を整えることを目的とした制度です。
この制度を使えば、家賃負担がかなり抑えられます。しかし利用には条件があるので、まずは制度の概要をしっかりと把握しておきましょう。
借り上げ社宅制度の概要
借り上げ社宅制度は自治体によっても条件に差があります。今回は厚生労働省が出している条件をもとに、関東の2つの地域での制度内容をご紹介します。国による制度概要
実施主体:子育て安心プラン実施計画の採択を受けている市区町村
対象者:採用された日から10年以内の常勤保育士
補助額:上限額は月額82,000円(負担の割合は、国1/2、市町村1/4、事業者1/4)
これまでは採用から5年以内でないと補助が受けられませんでしたが、国の予算案の見直しにより10年以内であれば受けられることになりました。ただし条件によっては5年以内でないと制度利用ができない場合もあります。まずは自分が対象者であるかどうか確認してみましょう。
参考:保育関係予算の概要【2019年(令和元)年度補正予算案・2020(令和2)年度予算案】P34/厚生労働省
例:世田谷区の場合
まずは、ひとつめの例として世田谷区を見てみましょう。※端数がある場合は10円未満を切り捨て
補助対象:常勤保育従事職員(保育士、看護師、施設長、保育補助者、調理員、栄養士)
※幼稚園教諭免許のみの場合、幼稚園教諭やみなし保育教諭は対象外
条件:①1日6時間以上、月20時間以上勤務していること
※この条件を満たせば非常勤でも可能
②保育施設の経営に携わる法人役員は対象外である
③運営事業者が借り上げた宿舎に入居していること
④平成27年2月以前から雇用主の宿舎に居住していないこと
⑤雇用主の宿舎を正当な理由なく転居したことがないこと
⑥補助を受ける自身や、同居者が住宅手当などを受けていないこと
対象施設:認可保育園、認定こども園、認証保育園、認可外保育施設(条件あり)、小規模保育事業、事業所内保育事業など
補助期間:平成27年4月1日から平成33年(令和3年)3月31日まで
対象経費:賃借料、共益費(管理費)礼金、更新料など
参考:世田谷区保育士等宿舎借り上げ支援事業補助金に関するQ&A/世田谷区ホームページ
例:横浜市の場合
次に、神奈川県横浜市を見てみましょう。※端数がある場合は、1,000円未満は切り捨て
補助対象:市内保育所等に勤務する常勤保育士で、雇用開始から10年目までの者
条件:①平成24年度以前に事業者が借り上げる宿舎に入居している者を除く
②住宅手当が支給されていないこと
対象施設:認可保育園、認定こども園、認可保育園への移行を目指す横浜保育室、小規模保育事業
補助期間:借り上げ社宅に入居している期間
対象経費:賃借料、共益費(管理費)
※礼金、更新料、敷金等は対象外
参考:保育士宿舎借り上げ支援事業Q&A(事業者向け)/横浜市ホームページ
このように、自治体によって補助額や対象経費、対象者などの条件にかなりの差があります。まずは自分が居住する自治体に確認をしてみることをおすすめします。
また自治体の条件とは別に、事業所ごとに条件を設けているところも多くあります。就職や転職先を決める前に、園側にも確認をしておくと間違いがありませんよ。
借り上げ社宅制度Q&A
借り上げ社宅制度はとてもありがたい制度ですが、「どういうこと?」とクエスチョンマークが浮かんできそうな少しややこしい条件が提示されていますね。ここでは、よくある疑問についてまとめてみました。Q.結局いくら補助があるの?
まずは受けられる補助額です。見ていると、国の上限は82,000円で自治体はその7/8で…と、頭がこんがらがりそうですね。上に挙げた世田谷区は「82,000円の7/8を上限」としています。ここでは世田谷区の園で補助を受けると想定して、実際の補助額を見てみましょう。【家賃80,000円の家に住むとき】
①オーバーした分を事業所が負担してくれる場合
- 80,000円の7/8=70,000円が補助対象
- 事業所が残りの1/8=10,000円を負担
(80,000円から保育士負担10,000円を引いた70,000円で計算)
- 70,000円の7/8=61,250円が補助対象
- 保育士が10,000円を支払い
- 事業所が残りの1/8=8,750円を負担
①オーバーした分を事業所が負担してくれる場合
- 82,000円の7/8=71,750円が補助対象
- 事業所が残りの1/8=10,250円を負担
- さらに事業所が補助対象外の18,000円も負担
- 82,000円の7/8=71,750円が補助対象
- 事業所が残りの1/8=10,250円を負担
- 補助対象外の18,000円は保育士の自己負担
Q.好きな家に住めるの?
せっかくひとり暮らしするなら、自分の好きな家に住みたい! と思いますよね。しかしここも要チェック。必ずしも好きな家を選べるとは限りません。家を選ぶ基準は、下記のように事業所ごとでさまざまです。- 好きな家を選べる
- 事業所の指定の不動産で探せば好きな家を選べる
- 事業所が指定している家の中から選ぶ
- 事業所が指定している家に住む
- 事業所で一棟借りをしているアパートに住む ※この場合、同じアパートに先輩や系列園の同僚などが住むことになります
Q.同棲やルームシェアはできる?
とても多い質問として挙げられるのが、「恋人との同棲」「家族の同居」「友人とのルームシェア」などはできるか? というものです。実はこれも、“事業所による”ところが大きくなってきます。上でご紹介した世田谷区、横浜市については、同居人がいても家賃補助を受けている者がいなければ対象になると書かれています。しかし、それでも勤務先が「同棲はNG」など条件をつけていることも多いです。
実際、保育士時代に転職により同区内の2つの事業所で借り上げ社宅制度を利用していた筆者は、A社は同居NG、B社は同居OKでした。家族ならOKとしているところもあるので、もしひとり暮らし以外を考えている方は事前に確認しておく必要があります。
Q.借り上げ社宅制度はいつまで使える?
実はこの借り上げ社宅制度、永遠に利用できることが確約されているものではないのです。実際に世田谷区では、現時点では「平成33年(令和3年)まで」とされています。これは国の予算などにも関係してくるため、制度が突然なくなる可能性もあるということを念頭に置いておきましょう。アドバイスとしてお伝えしたいのは、「もし制度がなくなっても払える家賃の家を選ぶこと」。なくなってみたら負担額が大きすぎて支払いが辛い…となってしまうことを避けるためにも、自分の中でよく考えて家を選ぶと良いですよ。
ひとり暮らしも夢じゃない!
家賃の補助が受けられる借り上げ社宅制度は、とてもありがたいですよね。自己負担額もかなり削減できるので、その他の生活に当てられるお金が増えるのもうれしいポイントです。制度を上手に利用して、ライフスタイルの充実をはかっていきましょう。【関連記事】