エピソード記録とは
「エピソード記録」は保育記録の一つで、活動や生活の一場面を切り取って、子どもの様子や感じ取った心情、そしてそれを見た保育士自身の心情を言語化していくものです。「エピソード記述」とも言われています。この記録方法は保育実習日誌を書く際にも用いられるので、保育学生の方も知っておくと良いでしょう。
目的
エピソード記録を行う目的として、次のようなものが挙げられます。- 子どもの発達の記録
- 保育の質の向上
- 保育士や保護者との情報共有
また、他の保育士や保護者と情報共有を行う上でも役立ちます。口頭だけでは伝わりにくい情報も、エピソード記録で整理されていることにより、本来伝えたい内容を的確に伝達することができます。
保育日誌との違い
クラスの様子や状態を記録するものとして、保育日誌があります。保育日誌は運営状況が分かるように、クラス全体の様子を客観的に記録します。それに対してエピソード記録は、小グループや個人の様子を記録し、保育士の考察も付け加えます。
【エピソード記録と保育日誌の違い】
エピソード記録 | 保育日誌 | |
---|---|---|
対象 | 個人・小グループ | クラス全体 |
内容 | 印象的な出来事 | 全体の様子 |
形式 | 自由 | 定型 |
頻度 | 必要な時 | 毎日 |
ポートフォリオとの違い
同じく保育記録の一つとして知られる「ポートフォリオ」との違いについてはどうでしょうか。ポートフォリオは成長過程の可視化を目的としているため、写真を用いた記録が基本となっています。それに対してエピソード記録は、文章だけで記録することも可能です。しかし、可能であれば写真も添付した方が、情景をイメージしやすくなるでしょう。
また、エピソード記録は個人や小グループの記録ですが、ポートフォリオは子ども一人ひとりの記録です。小グループの活動でも、個人に焦点を当てて作成したものはポートフォリオに活用することができるでしょう。
エピソード記録のメリット
一見すると「日誌と一緒で良いのでは?」「わざわざ書く意味は?」と、少し面倒に感じてしまうかもしれませんが、実は良い面がたくさんあります。エピソード記録のメリットを見ていきましょう。
子どもの成長が見えやすい
ある一場面に注目して記録をすることで、子どもの成長が見えやすくなります。例えばお友だちとのままごとでの出来事を切り取った場合、最初は頑なに道具を貸そうとしなかった子どもが、あることをきっかけに自ら貸す姿が見られたとします。この時、子どもの心の中で何か変化があったはずですよね。一つの遊びの中でも、子どもの成長が詰まっていることに気付くことができます。
子どもへの理解が深まる
では、上で挙げた例の中で、子どもがお友だちに道具を貸そうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。保育士はエピソード記録を書く中で、自然と子どもの心の内を深く考えるようになります。このことを通して、子どもへの理解が深まっていきます。保育を振り返ることができる
エピソード記録には、保育士の対応も書きます。書きあがったものを改めて読んでみたり、園内で話し合ったりすることで、保育を振り返ることができます。そこから「次はこんな声かけが良いのではないか」「ここはこうすると子どもの主体性が育つのではないか」など、次の保育に繋げていくことができますね。
保護者の子どもに対する視点が広がる
専門的な知識を身に付けた保育士は、子どもの姿から発達を読み取ることができます。保護者が、保育士の気付きを記録したエピソード記録を読めば、いつもとは違う角度からわが子の成長を感じることができるでしょう。「先生は、こういう視点で子どもたちを見ているのか」「できなくても、挑戦しようとしている過程が大切なのか」など、保護者自身の気付きも生まれることが期待できます。
エピソード記録の書き方
ここからは、エピソード記録を書く上でのポイントを3つ紹介します。5W1Hを書く
エピソード記録を書く時には、「5W1H」を意識しましょう。- Who(誰が)
- When(いつ)
- Where(どこで)
- What(何を)
- Why(なぜ)
- How(どのように)
印象的な場面のメモをとる
忙しい毎日の中では、1つの場面だけ心に留めておくのは至難の業です。「このことをエピソード記録に書きたい」と思った瞬間があっても、忘れてしまうということも多々ありますよね。あとから状況を思い出せるように、メモをとっておきましょう。この時に、子どもの様子だけでなく、自分が感じたことも書いておけば、後から記憶を取り出しやすくなります。
背景・エピソード・考察を書く
エピソード記録は、次の3つのパートに分けて書きます。- 背景
- エピソード
- 考察
エピソード記録の例文
では、エピソード記録の事例を「背景」「エピソード」「考察」に分けて見てみましょう。背景
エピソードを書く前に、その出来事の背景を書きましょう。読み手が、場面や子どもの姿をイメージしやすくなります。
【背景の例】 2歳児クラスでままごとをしていた時のことです。 園で誕生日会を行ったことをきっかけに、誕生日パーティーが流行っていて、みんなでままごとのケーキを集めてパーティーごっこをしていました。 |
エピソード
エピソードは、子どもの言葉や行動を具体的に書きます。時系列に並べて書くことで、イメージの中で子どもの姿が生き生きと動き出します。
【エピソードの例】 Hくんは自分がケーキを作って私に渡したい、と思ってくれていたようで、ままごと道具の中にあるケーキのパーツを全て集めてケーキを作り始めました。 そこにMちゃんがやってきて、「みんなで!」と言って、Hくんからケーキを取り上げてしまいます。Mちゃんはみんなで一緒にケーキを作りたかったのです。 もちろんHくんは使っていたものをとられたことに怒ってケンカが始まり、とってはとられての繰り返しでお互いに譲りません。 最初はケガだけはないように見守っていたものの、落ち着く様子がなかったので声を掛けました。 「先生はみんなで仲良く作ったおいしいケーキが食べたいなあ。ケーキだけじゃなくて、いろんなご飯も食べたいな」 するとHくんがMちゃんに、「はんぶんこ」と言って、ケーキのパーツの半分を渡しました。 それを受け取ったMちゃんは、「一緒に作ろ」と言ってHくんの手を引いてキッチンまで行き、なにやらふたりでご馳走を作っている様子。 ままごとの食材は半分に切れるので、必ずどれも半分ずつにして一緒にお皿に盛り付け、私のところまで運んでくれました。なんと最後には、お片付けまで協力して行ってくれたのです。 |
考察
最後に、エピソードから得た保育士の気付きや考察を記入します。子どもの発達過程を踏まえた上で、保育者の支援の在り方や子どもの育ちなどに焦点を当て、保育士が感じたことを書きましょう。
【考察の例】 あの時「貸してあげて」「一緒に遊んでね」という直接的な声かけではなく、間接的に「仲良く作ってほしい」という言葉をかけたことで、その意味をしっかりと理解してお互いに協力する姿が見られました。 子どもは大人が思う以上に言葉の意味を理解し、自分たちでどうしたら良いのか考える力が育っているのだと感じた場面でした。 |
保育をより良くするために
エピソード記録を通じて、子どもを理解し、保育の質を高めていくことができます。「面白い」「すごい」と感じたことがあったら、メモをとっておきましょう。後からエピソード記録として言語化し、子どもの育ちや持っている力に触れてみてはいかがでしょうか。エピソード記録を取り入れてみようと考えている方は、参考にしてみてください。
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