今回のお悩み:4歳になる突然の噛みつき・ひっかきをする子への対応
Mさん(一般保育士 勤務10年)からのご相談
3月で4歳になる男の子ですが、誰構わず引っ掻きをしてしまいます。いっときは固定の子どもへの噛みつきでしたが、今は通りかかった子どもの顔や背中、歌の時間に少し離れた子どもの所へ走り出し背後から顔面を引っ掻く事が続き、1対1で付き手を繋いでいてももう片方の手で通りすがった子どもへ手が出る状況です。
稀に一緒に遊ぶ時もありますが、ほとんど1人で時計で遊んでいることが多いです。おもちゃを取られた、欲しいとかではなく本当に突然です。
痛い事、お友達が怖がっている事を伝えますが、笑っています。数回回避した事はありますが、拘束はしたくないですし、同じ環境の中で過ごせるのであればそうしてあげたいです。
専門家からMさんへの回答
たくさんの園でも困っている課題
お友だちに手が出てしまう子への対応は、たくさんの園でも課題の一つとして多く挙げられる内容です。前後関係から理由が明確であれば、対応策も考えやすいでしょうが、今回のご相談のように特定の子でもなく、理由も明確ではないという場合、どうすれば良いのか頭を悩ませるという園での質問はよくあります。
しかし、必ず行動には理由があります。この理由を探るのにはお子さんをよく観察すること、お子さんの立場になって考えられるための知識を学ぶことです。
今回勇気をもってご質問いただいたことで、同じ悩みをもつ先生方にも届き、その子にとっても周囲の子ども達にとっても良い方向に向かうことが出来るよう丁寧に解説させて頂きたいと思います。
①安全で安心な場所を確保する
今回の場合、いくつかの理由が考えられると思います。まず、一つ目はこの子が園生活を安心で安全な場所だと感じる事が出来ているでしょうか? 周囲からの見た目ではなく、その子になったつもりで考えてみてください。
自分が遊んでいる時に、すぐ近くをお友だちが通っただけでも玩具を取られるのではと感じてはいませんか?歌の時間は、この子にとって大好きな時間で安心できるものですか?それとも大きな音や人の声が苦手で避けたいと感じている活動ですか?
まずは、この子の好きと苦手を一つずつ把握してみましょう。そして、苦手は避け安心できる環境を整えていきましょう。
例えば、遊びの時間は自分だけの場所が明確にわかるスペースを確保しましょう。これをパーソナルスペースと呼びますが、このパーソナルスペースは周囲との境界線が明確になるように配慮してください。例えば色付きマットを敷く、絵本やままごと棚で区切る、ビニールテープでラインを引く、パーテーションで区切る等、園でできる方法を取り入れてみましょう。
この様な対応をすることで、自分だけの場所が明確になり、人が突然近寄ってこない、玩具を取られない安心が提供できます。
いつも玩具を取られるかもしれない不安や誰かが急に近寄ってくる不安を感じていては情動を安定せず、落ち着いて遊び込むことができないからです。
②遊びを充実させる
二つ目は、遊びの充実です。ほとんどの時間を時計で遊んですごしているという情報が書かれていますが、遊びが少ないと長時間の園生活では遊びに飽きてしまい、不適切な行動が起きがちです。
その子の好き(時計)を使って遊びを横に拡げていきましょう。例えば、時計も様々な時計を準備するとか、時計の何が好きなのかをアセスメントし、数字が好きなら数字の玩具を準備しても良いですね。様々な時計の写真をカード入れに入れるという遊びを行ってもよいでしょう。
他児の元へ行こうということが頭に思い浮かばないほどに、集中して遊び込める環境を整えることをお勧めします。また、この時に、遊びに集中できるようお友達の遊びが視界に入らないよう壁向きで遊ぶ、周囲が見えないような配慮をすると良いでしょう。
興味の幅が狭いことで、遊び込める時間が短くなり他児への不適切な行動が起きるということが良くあります。文面から、お友だちが痛かったと伝えても、まだ相手の気持ちになって考えるのは難しい段階であることが考えられます。
起きてから子どもを注意するのではなく、起きないように環境を工夫することで、子どもにとってもストレスなく行動を調整することができます。
また、いつも歌の時間にお友だちに手が出る、それが音への拒否を伝えるコミュニケーション手段のようであれば、その活動は本人にとってマイナスでしかないので、別の活動をして過ごすなど、今はその子にとって安心できる場所、安心できる人の育ちを優先させることをお勧めします。
遊びの発達段階については、こちらの動画でも詳しく解説していますので、あわせてチェックしてみてください。
園が安心できる場所であるように
この子にとって今大切なことは、皆と一緒に歌をうたえることでもなく、誰かと一緒に遊べることでもなく安心できる場所で安心してじっくりと遊び、情動が安定することです。何歳であっても、その子の発達段階に合わせた環境を整え、無理に発達を引き上げようとせず、自分の力で伸びていくことを支える、そんな素敵な保育を行っていけることを期待しています。
また、行動の理由を知ることができる為の学びを継続し、今回の様に疑問をひとつずつ解きたいという想いを忘れず日々の保育を行っていくことを応援しております。
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