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漁師が手作りする昔ながらの帆船
私たちが住む地域では、漁に出るための船を漁師の人たち自身が手作りします。モーターなどを使わない、昔ながらの帆船。現地では、“ジャンガーダ(Jangada)”と呼ばれています。ある時、漁師たちが集まりこんな話を始めました。「漁はつらい。大変だ。でも、1日くらい自分たちが楽しめる日があってもよいのではないか?」
そして、漁師による、漁師のためのレースが開催されることになりました。
町をあげての大イベントに
私が住むエステーヴァン村でも、普段漁に使っている船を使って、レースをすることになりました。初めは、ただ漁師たちが集まり、「よぉ~い、どん!!」と、競争を楽しむだけでした。しかしそれは次第に町をあげての大きなイベントへと発展していきました。すると、漁に出る船ではない、レースのための漁船(帆船)を作る人も現れるようになったのです。現在では、ジャンガーダによるレースは、私たちが住むセアラ州のほとんどの海岸で開催されるようになりました。毎年9月になると毎週末、必ずどこかの海岸でレースが開催されます。10艘ほどの小さなレースからカテゴリー分けされ、全部で50艘近くも参加する大規模なレースまで。それぞれの地域が町おこしのためのイベントも兼ねてレースを開催するようになっています。
エステーヴァン村で起きた変化
さて、私が住むエステーヴァン村は? というと…。初めはただ自分の漁船でレースを楽しんでいた漁師たち。それがいつしか市や政府が賞金を出すようになり、参加者全員に食品が配られるようになりました。そうなると、「漁師による、漁師のためのレース!!」ではなく、町のイベントの一つとなり、楽しみというよりもレースに勝つことが最優先されるようになってしまったのです。
それに反発したのは、エステーヴァン村で漁師ためのレースをしようと企画し、運営してきた漁師たち自身でした。レースに勝つための船なんて必要ない。自分たちに必要なのは、漁に出ることのできる、漁のための船である…と。
こうして2016年を最後に、エステーヴァン村では「漁師による、漁師のためのレース」が開催されることはなくなりました。それでもエステーヴァン村の漁師たちは、近隣の村で開催されるレースを観戦するために、毎週末のように村々に足を運びます。自分たちのレースは自分たちの意思に反してまで開催したくない。けれども、やはりジャンガーダのレースは、見たい!! ということなのでしょうね。

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