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保育施設における『特別な支援を要する子ども』の実態調査結果を解説

子どもと手を繋いでいる大人の手
特別な支援を要する子どもの保育の在り方について、園内で話し合ったり、研修を受けたりする機会は多いかと思います。全国の保育施設では、どのような教育・保育の現状があるのでしょうか。今回は、国立特別支援教育総合研究所が実施した、特別支援教育の調査結果をご紹介します。

調査の概要

調査結果のデータグラフと虫眼鏡
令和3年度(2021年度)に、独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所の幼児班(乳幼児期の特別支援教育に関する研究班)は、就学前の子どもを対象にした特別支援教育についての調査を行いました。無作為抽出した全国の保育所・認定こども園・幼稚園の計2,000園に質問紙を送付し、794園が回答しています。

令和6年(2024年)3月に結果が公表されたこの研究では、特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する状況を調査しています。目的は、「インクルーシブ教育システムの構築に向けた特別支援教育の充実に繋がる情報発信を行うこと」。すべての子どもが同じ場で共に遊んだり、教育を受けたりできる環境を作るために、保育施設における特別支援教育の実態を調べました。

今回の調査では、「特別な支援を要する子ども」について、次の3つのいずれか、もしくは複数に該当する子どもと定義しています。
  • 医療機関による障害の診断がある子ども
  • 都道府県や市区町村から『特別な支援を要する子ども』と認定された子ども
  • 診断の有無に関わらず、園で特別な支援を要すると判断した子ども


特別な支援を要する子どもの割合

それでは、調査の結果を見ていきましょう。

年齢別の割合

調査で把握された0〜5歳児、計93,702人の中で、「特別な支援を要する子ども」と「障害の診断のある子ども」の人数と割合が次の表に示されています。
保育施設における『特別な支援を要する子ども』の割合を示したデータ表
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
特別な支援を要する子どもは7,634人で、調査全体の8.2%となっています。これとは別に障害の診断のある子どもは2,795人で、全体の3.0%でした。

特別な支援を要する子どもの中で割合が多かったのは、4歳児で9.2%でした。次いで5歳児が9.1%、3歳児が8.4%となっています。

障害の診断のある子どもの割合を見てみると、5歳児が4.3%で最も多く、4歳児の3.4%、3歳児の2.5%と続きます。

3歳未満児よりも、3歳以上児で支援を要する子どもの割合が増えています。3歳以上児になると保育士1人あたりの子どもの人数が増え、集団が大きくなるため、子どもの発達の差や支援の必要性が見えやすくなってくることが理由として考えられます。

診断のある子どもの障害種

次の図は、医療機関などによる診断のある子どもの障害種と、その子どもが在籍する園の割合を示しています。
医療機関等の診断のある子どもが在籍する園の割合を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
保育施設に在籍する子どもの障害種として一番多かったのは、ASD(67.8%)で、次いでADHD(25.6%)、知的障害(24.2%)と続きました。

割合としては少ないですが、選択性緘黙(2.3%)、LD(3.4%)、視覚障害(3.8%)の診断を受けている子どもも保育施設に在籍していることが分かります。

外部の児童発達支援センターなどの利用状況

ここからは、特別な支援を要する子どもの並行通園(※1)の状況を見ていきましょう。
※1 並行通園とは…保育施設と並行して、児童発達支援センター(通園施設、療育センター)や児童発達支援事業所(デイサービス)などを利用すること

並行通園の有無

次の図は、保育施設における並行通園の有無を示しています。
並行通園等を利用している子どもの在籍有無を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
保育施設と児童発達支援センターなどを併用している子どもが在籍している園は、794園中592園で、全体の74.6%でした。

多くの園で、特別な支援を要する子どもが他施設にも通っていることが分かります。

並行通園の頻度

次の図は、並行通園の頻度を示した図です。
並行通園の日数を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
並行通園の頻度として1番多く見られたのは「週に1回」(75.3%)でした。「週に2回」(51.4%)、「週に3回」(28.5%)と、回数が増えるごとに割合が減少していることが分かります。

児童発達支援センターなどを利用する利点

次の図は、在園する子どもが児童児童発達支援センターなどを利用する利点を表しています。
児童発達支援センターや児童発達支援事業所を利用する利点を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
児童発達支援センターなどを利用する利点として最も多く見られたのが「子どもの実態把握、子どもへの効果的な支援や指導等につながる」(73.0%)でした。次いで、「教師への専門的な助言や相談、研修の機会、園との連携等につながる」(32.4%)、「保護者への療育に関する支援や助言につながる」(18.3%)という回答が見られました。

調査結果報告書では、児童発達支援センターなどを利用する利点として、次のような具体例が紹介されています。
  • 個別でのプログラムを受けることで、経験が広がり、園生活にも反映されている。
  • 園では補えない、様々な経験や活動ができる。
  • 親、幼稚園、療育センターが同じ方針でその子と接することができる。
  • 療育機関による巡回相談等により、専門的なアドバイスを頂くことができる。
  • 児童発達支援センターに行くことにより、どのようにその子の発達を支えていけばよいのか、保護者とともに進めていく道筋が分かる。
  • 放課後等デイサービスを兼ねている所も多く、就学後も継続して利用できる。環境が変化する時期に変わらず利用できる場所があることで、不安が軽減される。
  • 保護者の育児負担軽減・保護者が働いていても、安心してみてもらえる。
児童発達支援センターなどの利用によって、子どもの発達がサポートされるだけでなく、子どもを支援する保護者や保育施設にとってもプラスの効果を実感している園があることが分かります。

児童発達支援センターなどを利用した際の課題

次の図は、在籍する子どもが児童発達支援センターなどを利用する際の課題を示しています。
児童発達支援センターや児童発達支援事業所を利用する課題を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
子どもが児童発達支援センターなどを利用する上で保育施設側が最も課題だと感じているのは「園との連携・方針が合わないなど関係性が不十分である」(45.4%)ということでした。その他に、「子ども同士の関わりの機会や園行事等への参加に影響する」(20%)、「子どもへの負担が大きい・生活リズムが崩れる・成長につながっていない」(18.1%)、「保護者の理解・保護者への支援・関係作り・ニーズへの対応が不十分である」(17%)という課題が同程度の割合で見られました。

調査結果報告書では、児童発達支援センターなどを利用する課題として、次のような具体例が紹介されています。
  • 園の活動体験がつながらない。行事に参加できないときがある。​​
  • 園と療育の並用により子どもにとって疲れやストレスの原因となることがある
  • 何故、自分だけが療育センターに行かなければならないか尋ねてくる。行くことを嫌がることがある。
  • 事業所で行われている活動と園での生活の刷り合わせ等、話し合いの時間がなかなか持てない。
  • 入所希望者が多いため、通所に至るまでかなりの時間がかかる。
  • 療育でのことを、幼児教育に求める方もおり、対応の参考にはさせていただくが療育施設ではないことを分かっていただきたい。
  • 母親が本児への療育を任せてしまい、家庭での支援をあきらめてしまいがちになっている。
児童発達支援センターなどを利用することで、子どもに負担や混乱が生じている例もあるようです。また、保育士が他機関との連携の難しさを感じていることも分かります。

保育所等訪問支援の利用状況

ここからは、保育所等訪問支援(※2)の利用状況について見ていきましょう。
※2 保育所等訪問支援とは…専門の職員が保育施設を訪問し、特別な支援を要する子どもの保育や職員の相談を行う支援のこと

保育所等訪問支援を利用している子どもの有無

次の図は、保育施設で保育所等訪問支援を利用している子どもの有無を示しています。
保育所等訪問支援を利用している子どもの在籍有無を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
保育所等訪問支援を利用している子どもが在籍する園は55.7%で、在籍していない園は44.3%でした。在籍している園の方が若干多く見られましたが、ほぼ同程度の割合となっています。

保育所等訪問支援を利用している子どもの人数

次の図は、一園における保育所等訪問支援を利用している子どもの人数を示しています。
保育所等訪問支援を利用している子どもの状況を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
訪問支援を利用している子どもが在籍している場合、一園あたりの利用者数が1〜2名(29.5%)という保育施設が最も多く見られます。次いで、一園あたりの利用者数が3〜4名(13.8%)、5〜9名(13.1%)と、複数名の子どもが訪問支援を利用していることが分かります。

中には20名以上(1.1%)の子どもが訪問支援を利用している園もあり、園により状況が大きく異なっていると言えます。

保育所等訪問支援を利用する利点

次の図は、子どもが保育所等訪問支援を利用する利点を示しています。
保育所等訪問支援を利用する利点を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
保育所等訪問支援を利用する利点として最も多かった回答が「園への指導助言が得られる」(49.0%)でした。以下、「児童発達支援と共通理解できる」(27.1%)、「園での様子を知ってもらえる」(13.4%)、「保護者への支援に生かせる」(10.4%)という回答が続いています。

調査結果報告書では、保育所等訪問支援を利用する利点として、次のような具体例が紹介されています。
  • 専門職の先生からの助言は、納得することが多く、子どもたちのアプローチの仕方 を見直すきっかけになる。
  • 我々では気づかない、外部の専門の方による“視点”を教えていただけることです。
  • 療育での様子を教えていただき、園での様子から子どもの幼児理解が深まるととも に発達課題に対しての支援が共通理解でき、相互の連携が深まる。
  • 園での生活をみていただき、関わり方などよいアドバイスをもらうことができた。 第三者(専門の方)から保護者へ様子を伝えてもらえるので受け入れてくれる。
  • 保育士と保護者と共通した思いで保育にあたれる。
  • 保育者から伝えにくいことも保護者に伝えやすくなる。保護者も気になりつつ相談 出来なかったことが相談できる場になるので良い。
  • 家庭での困り事、園での困り事を共有し、よりよい環境へ向けての対応をすすめる ことができる。
園で専門家に子どもの姿を見てもらい、専門的な視点や支援のアドバイスを受けられる点が保育士の学びに繋がっていることが分かります。また、専門家と連携をすることで、保護者とのやりとりも円滑になっていると感じている方もいるようです。

保育所等訪問支援を利用する際の課題

次の図には、保育所等訪問支援を利用する上での課題が示されています。
保育所等訪問支援を利用する課題を示したグラフ
引用:令和3年度 保育所、認定こども園、幼稚園における特別な支援を要する子どもの教育・保育に関する全国調査 調査結果報告書/独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 >>詳細はこちら
課題として最も多く見られた回答が「回数が少ない」(22.1%)でした。次いで「保護者の理解」(21.2%)、「内容が園に合わない」(15.0%)といった回答が多く見られました。

調査結果報告書では、保育所等訪問支援を利用する課題として、次のような具体例が紹介されています。
  • いつでも相談できるという訳ではない。
  • 幼稚園としては相談したいが、保護者が受け入れられないことがある。
  • 支援センターでの支援の提案が、園では難しいことがある。
  • 担当職員が書く書類が多くなり負担が増す点。
  • 支援センターの先生がもう少し集団での園生活の理解を深めてくれれば・・・・・・と感じることがある。
  • 数名の子どもに違う機関の方が来られたことがあり、訪問日だけでなく、それぞれに打ち合わせもあり、日程調整が難しいことがあった。
  • スタッフの来園により、普段と様子が異なることがある。
訪問支援を利用する課題として、連携の難しさを感じている方が多いようでした。専門性が異なることにより、考え方のすれ違いが生じる場合も。コミュニケーションをとる時間も限られているため、それぞれの意見や方法を共有する時間が十分に取れないという問題点も考えられます。

インクルーシブな保育環境を目指そう

調査結果から、多くの保育施設に特別な支援を要する子どもが在籍しており、児童発達支援センターや訪問支援などと連携を図りながら子どもの育ちをサポートしている実態が分かりました。現状では利点と課題の双方があり、改善すべき点も少なからずありそうです。保育施設と専門機関との連携の在り方は今後の大きな課題と言えるでしょう。

今回の調査結果を参考に、すべての子どもが共に心地良く過ごせる保育施設を作っていきたいですね。

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佐野 きこ(さの きこ)

この記事を書いた人

佐野 きこ(さの きこ)

現役保育士。
現在は子どもだけでなく、保育士や保護者など、子どもに関わる人をサポートする仕事がメイン。子どもも保護者も保育士も、みんなが笑顔になれる保育を目指している。
座右の銘は「保育士は、保育のプロである」
保育の専門家として、わかりやすく保育を語れるよう奮闘中。
家庭では、2人の息子のお母さん。

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