「より良い保育」って何だろう?
もう20年以上も前のことですが「より良い保育」をしたいと思っていた私は、研修に参加したり勧められた本を読んだり、どのようにしたら良いかと方法を探していました。ある時、灰谷健次郎さんの「天の瞳」という小説を読み、「こんな風に子どもたちと関わりたい」と強く思いました。
そこに描かれている大人たちは子どものありのままの姿を受け止め、子どもが自ら育っていく姿を見守り、力付け、時には諭し…そして、大人自身も悩んだり迷ったりしながら子どもにとって何が良いのかを模索していました。
それは子どもを信じ、寄り添っていく姿でした。
私はこの本に描かれているような大人になりたいと思っていたけれど、現実とはほど遠いものでした。
運動会や発表会の練習を嫌がる子どもをあの手この手でなんとか他の子と同じようにさせようとしたり、お昼寝の時に寝ないでおしゃべりをする子どもたちを叱ったり…。
保育の仕事のなかで、理想と現実のギャップを日々感じていました。
この「天の瞳」に出てくるおじいちゃんと園長先生の言葉や考え方が素敵で、自分のものにしたくて、「どうしたらこんな風になれるのだろう?」と何度も読み返していました。
今考えると、私が欲しかったのは“あり方”でした。
「どのように話すか」とか「どんな行動を取るか」ではなく、必要だったのは「自分はどう在るか」という“あり方”です。
登場人物のおじいちゃんの存在は、主人公の子どもにとってお手本であり、一番の理解者でした。私はこんな存在になりたいと思っていたのです。
でも、この本には「おじいちゃんのようになる方法」は書いていません。
一つこの本から得たことは、子どもと向き合う時に大切なのは“子ども扱いすることなく、お互いの関係を築く”ということでした。 [天の瞳 幼年編1 ]
「天の瞳 幼年編1 」
著者:灰谷 健次郎
出版社:講談社
発売日 : 1999年7月3日
子どもたちと、どう向き合う?
今でも鮮明に覚えていますが、“子どもたちにまっすぐ向き合う”ということを意識した日のことです。ある男の子が私のところへ、「先生、今日はおもしろいよ。今日いいね〜!」と言いに来たのです。すると他の子どもたちも「うん!今日の先生大好き!」と口々に言うのです。
それまで、余程イマイチな保育だったのでしょう…。
確かに日々子どもたちをコントロールしようと必死でしたから、実際にはそのままの子どもの姿を捉えてはいなかったのだと思います。
でも、その日は違いました。
私自身もとても楽しく、子どもたちと心を通わせた保育ができました。
子どもは本当に大人をよく見ています。敏感にいろいろなことを察知しています。
私が密かに意識した“あり方”をキャッチし、変化を感じていた子どもたち。
この時私は、子どもたちから大切なことを教えられたように思います。
私たち大人が子どもたちをどのように捉えているのかを、子どもたちは敏感に感じ取ります。
子どもをひとりの“人”として捉え、信じて向き合ってみたら、それは自然に子どもたちへと伝わります。大人が子どもをどう捉えているかで、子どもの育ちも変わります。
子どもの意見、感情、存在を尊重することで、子どもの心は自由になり、持っている個性を発揮し始めます。
ユニークで楽しい保育、それはそれぞれの個性が存分に発揮される保育だと思います。
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