今回のテーマは「卒園後のサポート」
前回の「卒園児が小学校就学前教室で不登校になってしまった」ストーリーに続き、今回は「小学校就学前教室」をスタートした当時のお話をしたいと思います。▼前回のストーリーはこちら 2003年当時のブラジルでは基本的に7歳くらいになると、子どもたちは小学校に入学していました。
ブラジルではいつから小学生? 当時は明確な規定がありませんでしたが、現在はブラジルでも、3月31日までに満6歳となる子どもが入学すると法律で定められています。 |
しかし同じ市内にも関わらず、カノア保育園を設立した地区エステーヴァン村(カノア・ケブラーダ)には‟小学校分校”しかなく、小学校就学前教室に当たるものは存在しませんでした。
「小学校就学前教室」の必要性
2003年当時、ブラジルの小学校に入学できる年齢に達するまで、保育園卒園後に通うことのできる施設がなく、家庭にいるしかありませんでした。保育園ができたことで多くの家庭は共働きとなっていたので、子どもを預ける場所が必要となったのです。
そこで、カノア保育園を卒園した子どもたちのために「小学校就学前教室」を開くことを決めた私たち。
まずは経験のある教員をサンパウロから呼び寄せ、エステーヴァン村の住民の1人である“ルシアーナ”さんを助手としてスタートしました。
卒園生が通っていた“小学校分校”
もともとカノア保育園で初めての卒園児12人は‟小学校分校”(写真下)に通っていました。しかし、12人の卒業生全員が腹痛や頭痛などを訴え、不登校となってしまっていました。 その2か月後、私たちが新たに始めた「小学校就学前教室」。卒業生12人も新たにに通い始めたことで、こうした症状を訴える子どもは1人もいなくなりました。“小学校分校”の教室と、私たちが開いた「小学校就学前教室」。いったいどんな違いがあったのでしょうか?
「小学校就学前教室」で大切にしたこと
そもそも「カノア保育園」では、先生たちが子どもたちと同じ目線に立ち、肌が触れ合える距離で過ごしていました。一方、‟小学校分校“の教室では先生は黒板の前に立ち、子どもは机に座って学びます。子どもにとって先生は、遠い存在でした。子どもはそんな先生を怖いと感じ、不安に感じてしまっていたのでした。
―突然変わってしまう環境。それを1年かけて少しずつ慣れていってもらうようにしよう。
そのために私たちは、細かい段階を経て、小学校の環境に近づけていくことにしました。
①好きな活動をしながら慣れる
一人ひとりに机とイスを用意し、まずはそれをくっつけて今までと同じように大きな机のまわりに子どもたちが座り、絵を描き、粘土で遊び、水彩画を楽しみました。少しずつ子どもたちが行いたい活動、例えば絵を描く、編み物をする、工作をする、リコーダーを奏でるといったことを、自分たちの机とイスで行うようにしていきました。
一斉活動ではなく、子どもたちが興味のあることに取り組んでいく時間を作るということがポイントです。
②黒板のある環境に慣れる
その後、季節の話などについて黒板を使って説明するために、子どもたちは自分たちの机とイスを黒板に向けて先生の話を聞くようになります。保育園とは異なり教室に黒板を置くことで、子どもたちに黒板のある環境に慣れてもらうように工夫したのです。
こうして少しずつ、机とイスに座って学ぶということや、先生が隣に座っているのではなく、前に立って話すということに慣れていってもらうことにしたのです。
③小学校という場所を意識する
それと同時に大切にしていたのは、小学校との交流です。日本の保育園でも5歳児クラスになると近隣の小学校を訪問したり、小学生が遊びに来たりすることがありますよね。小学校という場所で楽しむ、先生を知る…小学校の校庭で遊んだり、小学校の教室を借りて小学生と一緒にバザーを開催したりと、小学校を身近に感じ、保育園とは異なる環境を楽しむ仕掛けをいくつも用意しました。
写真は「小学校就学前教室」での給食のシーンです。
こうして子どもたちは「もうすぐ小学生になるんだ!!」と笑顔で話し、小学校に通うことを楽しみにするようになったのです。
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