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部屋に入らない子どもたち【みんなで作るカノア保育園・その6】

カノア保育園の窓から見える海
2000年、ブラジル北東部にある人口300人の小さな漁村“カノア・ケブラーダ”に保育園を作った鈴木真由美さんのストーリー。カノア保育園には、解決すべき課題がたくさんありました。そしてその最初の一歩は「子どもたちが部屋の中で過ごせるようにする」というもの。日本とはまったく異なる保育環境での試行錯誤の始まりでした。
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どうしても外せない課題

カノア保育園の最初の課題は、子どもたちを部屋の中で過ごせるようにすることでした。「なぜわざわざ入りたがらない子どもたちを部屋の中に入れないといけないの?」と思われる方もいるかもしれません。日本でも、森のようちえんなど、園舎を持たない保育をしているところはあります。しかし、「子どもたちが小学校に通うことができるようにする」という目的があった私たちにとってこのことは、どうしても外せない課題でした。




教室からいなくなる生徒

エステーヴァン村の中にある1~4年生までが学んでいる小学校分校。そこは2部制となっており、午前の子どもたちは7時に登校し、11時まで。午後の子どもたちは13時に登校し、17時まで学びます。

小学校分校にはたった一つしか教室がありません。その教室は、右の窓を見ると海。左の窓を見ると砂丘が見え、子どもたちはその誘惑にいつも負けてしまいます。そのため、登校から1時間を過ぎる頃には半分の生徒が教室からいなくなり、10時になる頃には生徒が一人もいない…ということが日常的に起こっていたのです。

せっかく小学校の分校ができたのに、子どもたちは学校に通わない。母親たちはどうしたらよいか分からないようでした。そこで、“保育園を作るのならば、小学校できちんと学ぶことができるような子どもにしてほしい!!”そんな母親たちの要望が挙がっていたのでした。

子どもにとって部屋は非日常の世界

子どもたちになぜ教室にいることができないのか尋ねると、「外で遊びたい!!」という言葉と同時に、「お部屋の中は暗くて狭いから怖い」という声が聞こえてきました。子どもたちが住んでいる家は狭く、日本でいうと1DKくらいの部屋に家族10人がハンモックを互い違いにして寝ている状況でした。そのため、家の中にいるのは寝るときだけ。食事も庭先で鍋を囲んで食べていました。それほど、お日様が照っているときに“部屋の中にいる”ということが、子どもたちにとっては非日常の世界なのでした。

そこで私たちはまず、「子どもたちが部屋の中で楽しく遊べるようになる」という目標を掲げました。そのためにはどうしたらよいのだろうか?

カノア保育園を作る前、エヴァさんの家に集まってきていたお母さんについてきた子どもたちは、私と一緒にお絵描きをすることがとても楽しいようでした。そこで、部屋の中ではこんなに楽しくお絵描きができるよ!!と、私自身が画用紙にクレヨンで絵を描きながら、子どもたちを少しずつ、部屋に誘っていくことにしました。

部屋のドアの前で描いていたところから、少しずつ奥へ、奥へと進んでいく私。その内に一人、また一人と、私のそばに座り、一緒にお絵描きをするようになりました。そしてついに、子どもたちみんなが部屋の中に入り、お絵描きをすることができるようになったのです!! 課題を解決するための小さな一歩を踏み出せた瞬間でした。


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