追悼・田畑精一さん
絵本作家の田畑精一氏が2020年6月7日、89歳でお亡くなりになりました。俺の愛する絵本『ダンプえんちょうやっつけた』、いつの時代も子どもたちのワクワクドキドキが止まらない『おしいれのぼうけん』、先天性四肢障がい児父母の会と共同制作した『さっちゃんのまほうのて』などの代表作は、心の中に残り続けます。今回は、保育園の担任としての視点で想いを綴っていきたいと思います。略歴
1931年(昭和6年)大阪市生まれ。京都大学中退後、人形劇団プーク、劇団人形座などで活動後、児童文学作家 古田足日氏と出会い、子どもの本の仕事を始める。
作品
『おしいれのぼうけん』『ダンプえんちょうやっつけた』『ひ・み・つ』(童心社)『さっちゃんのまほうのて』『ピカピカ』(偕成社)
正直、作家としての活動についてはあまり詳しくはなく、作品を通して知っている程度でした。この機会に調べてみたところ、『日・中・韓平和絵本シリーズ』(童心社)を通してなど、平和への取り組みに対しても一貫した姿勢と持っておられたことがわかりました。
「ぼくは 人を殺すのも、殺されるのも、大嫌いです。」
というストレートで“当たり前”の言葉を残しておられます。この“当たり前”を大切にしていかなければなりません。
保育園でも圧倒的な人気の名作
保育園の中で圧倒的人気を誇るのがこの名作! 220万部超えという数字は並じゃない!『おしいれのぼうけん』
ふるたたるひ たばたせいいち 作
童心社/1974年
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ミニカーの取りあいこをしていたあきらとさとしは、先生に叱られて、恐怖の押し入れに入れられてしまいます。そこからはじまる大冒険。世にもおそろしいねずみばあさんは、どこまでもどこまでも追いかけてきます。あきらとさとしは諦めずに逃げて逃げて…。
保育園に当たり前にある素材である画用紙に鉛筆で描かれたモノクロの絵。対照的に物語の大事なタイミングで登場する色彩豊かに塗りこんだ絵。その構成は、読者の冒険心を掻き立てます。児童文学作家の瀬田貞二氏が提唱する、子どもが喜び、引き込まれることの多い形「行きて帰りし物語」の基本の基。
この名作を保育園の担任をしながら子どもたちと読めることはとても幸せなことです。保育園だからこそ、この絵本はより輝くのです!
保育園以外では
- お客さまで来てくださる読書ボランティア(俺も地元小学校でやっています)にとっては、時間制限のある中での選書となり読みにくい。
- 図書館でのおはなし会など不特定多数の参加者がいる会では、長くて読みにくい。
- 家で保護者に読んでもらうことはできるが、友だち同士での共有体験ができにくい。
- 時間制限はなく、じっくりとおしいれの中から続く世界にどっぷりと浸ることができて幸せ。
- クラスの子どもたちと一緒に、保育園という日常が舞台の中で非日常の物語を共有できる。
- 読んだ後、クラスでごっこあそびが流行り、おしいれが大人気♪ ねずみばあさんに恐れをなすほど好きになる。
本書が刊行されたのは1974年(昭和49年)。働く女性が増え始め、保育園の需要も高まってきた時代でした。それから40年以上が経ちました。時代は変容していきますが、子どもたちの「こどもらしさ」は変わりなく、ワクワクドキドキを求めています。
保育園では読む時、読んだ後にも続けて楽しむことができます。絵本の物語「起承転結」のあとに、子どもたちの興味関心と保育士の環境構成で「転」が起こり、子どもたちの活動で「結」に至るのです。
『ダンプえんちょうやっつけた』と合わせてこれからの時代も読み続けられるであろう名作を残してくださった田畑精一氏。ありがとうございました。
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