乳幼児期に体を動かす経験が足りていない
乳幼児期に身体を十分に動かす遊びの経験は、子どもたちの発達に大きな意味を持ちます。一方で生活が便利になったことにより、遊びの貧困化による慢性的な運動不足、それに伴う神経機能の未発達など問題も山積みです。なんだかだらしない、やる気がないように見えるといった姿もこういった影響があると考えています。「体を動かす経験」を行うことで子どもたちのできることを増やしてあげるのが、筆者が提唱する「リズム運動」なのです。
リズム運動とは
リズム運動とは、斎藤公子先生がご考案された『さくら・さくらんぼリズム遊び』をベースにした運動遊びです。馴染みの曲に合わせ、生物の進化の過程にそったさまざまな動きを経験する中で 、乳幼児期の身体(骨や筋肉、関節、神経系)の発達を促し、運動コントロール能力を向上させることで、自分の身体を思い通り動かせるようになるための土台作りを目指します。この運動遊びを継続して行っていくことで、体幹が強くなるのはもちろん、全身の感覚が統合され、子どもたちのできることが増えていきます。
具体的にはどんな動きがあるの?
【金魚】まずは脱力〜ゆるめてから筋力をつけていく 両手を広げ仰向けになり、両足の踵を揃え、ゆらゆらとおへそを中心に背骨をくねくねと揺らす。身体の緊張がほぐれてきたら、うつ伏せの姿勢も行う。(おでこを床につけ、踵を揃え、足指を返す)【こうま】体幹を鍛える〜ハイハイ運動
足指を返して四つん這いになり曲に合わせハイハイをする。この時両手はしっかり開き、顔は下を向かないで前方を見るのがポイント。慣れてきたら、膝を伸ばし高這いの姿勢も行う。
【こま】・バランス感覚を司る前庭覚を刺激〜回転運動
音に合わせ両手を広げ、爪先立ちになり、こまのようにくるくる回る。音が変わったら仰向けに寝て身体を休める。2回目は逆回りを行う。「まわる」「寝る」を2〜3度繰り返す。
今回ご紹介したのはほんの一部です。 この他にも子どもたちの発達要求にこたえる動きが多数あります。
リズム運動の効果的な取り入れ方
朝はお散歩や製作など主活動の前に、取り入れることで身体のスイッチが入り、その後の活動に意欲的に参加できるようになります。夕方ならおやつの後に取り入れることで、リフレッシュでき、その後お迎えまでの時間を落ち着いて過ごすことができるようになります。
一日の生活に緩急つけることを大人が意識し、朝夕にしっかり身体を動かすリズム運動を取り入れることで、体温が上がり生活のリズムも整っていきます。(空腹を感じ、食事が楽しみになる。心地良い疲労感から、たっぷり眠り身体を休められるなど)
時間の目安は乳児さんなら30分程度、幼児さんなら1時間ほど取り組むことで子どもたち自身が満足感を味わうことができるでしょう。
得られるさまざまな効果
- 身体の余分な力がぬけ、落ち着いて行動できるようになる
- 身体を動かすことの心地よさを味わい、生活のリズムが整う(食欲、睡眠欲が高まる)
- 足指の刺激により土踏まずの形成を促せる(疲れにくい身体になる)
- 転んでも自分の身体を支える力がつき怪我が減る
- 手指の操作が器用になり、食具やペンの持ち方が安定する
全ては「楽しい」からはじまる
大人も子どもも心から楽しんで取り組めているかが大切なポイントです。子どもたちの成長発達を大人が強く願うあまり、つい「厳しいリズム運動」の時間になってしまっては、子ども達にやらされている感が芽生え、大切な身体を動かすことの喜びを味わうことができなくなってしまいます。基本の動き方はありますが、決してこうでなければならない、というものではありません。目の前の子どもたちに合わせ、柔軟に、臨機応変に対応していきましょう。「夢中で取り組んでいたら、できることが増えていた」という感覚を子どもたちがたくさん味わえるといいですね。
(参考文献:イラスト版 斎藤公子 さくら・さくらんぼ リズム遊び)