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発達障害のある子に『わらべ歌』を取り入れる目的・方法を解説

家族をモチーフにした木のおもちゃ
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってこられた原 哲也さんの連載コラム。発達障害の子どもとの『遊び』について解説するシリーズの今回は、「わらべ歌」を取り上げます。

「わらべ歌(童歌・わらべうた)」とは?

「わらべ唄発祥の地」と彫られた石碑
「わらべ歌」は、子どもが暮らしの中で歌い継いできた歌のことです。日本の「わらべ歌」は数百種類以上とされ、今も歌い継がれている歌がたくさんあります。

「童謡」もまた子どもの歌ですが、こちらは「大人が作った子ども用の歌」であるのに対して、「わらべ歌」は子どもたち自身が遊びの中で作り替え、口伝えしてきた歌、子どもによって選ばれ続けてきた歌なのです。

「わらべ歌」の種類

わらべ歌「げんこつやまのたぬきさん」が掘られたオブジェ
最初に、わらべ歌の種類を確認しておきましょう。

絵描き歌

例:あひるを描く「あひるのこ」、コック帽をかぶったコックさんを描く「かわいいコックさん」など

数え歌

例:「おべんとうばこのうた」
(「にんじんさん」と言いながら、指で2、3を示すなど弁当箱に入っている食べ物を、数字を使って表現して歌う)など

遊び歌(手遊び歌・ふれあい遊び歌)

例:「一本橋こちょこちょ」(「いっぽんばし、こちょこちょ、叩いて、つーねって」)
「あんたがたどこさ」などのてまり歌

子守歌

例:「ねんねん ころりよ」など

「わらべ歌」の機能

「FUNCTION」と書かれた積み木
わらべ歌には、6つの機能があります。

①ことばの意味を体得する

「大きな栗の木の下で」で、「大きな栗の」と言って手を大きく広げることで「大きな」とはこういうサイズだと理解する、「あなたと」で相手を指さすことで相手のことを「あなた」というのだ、「わたし」で自分を指さすことで自分のことを「わたし」というのだと理解できるようになります。

②ことばのリズムやアクセントを楽しむ

長い間歌い継がれてきた「わらべ歌」は、心地よいリズムとアクセントがあります。

そして覚えやすい。そういう歌だからこそ現在に至るまで歌い継がれてきたと言えるでしょう。

歌を覚えると、この次はこうなってこうなる、ことが予想できます。そして必ず予想通りになります。

それは子どもにとって「わかる」「できる」という実感を得られるということであり、とても楽しく、安心できることなのです。子どもは誰かと一緒に「わらべ歌」を歌う中で心地良いリズムとアクセントを楽しみ、そして、安心します。

③真似は楽しい

わらべ歌「ひげじいさん」で遊ぶ親子
子どもにとって「真似」は大きな喜びです。

なぜ真似が楽しいかというと、一つには、自分がしたことのない新しい行動を知って自分もできるからであり、もう一つは、自分以外の誰かになりきれるからです。

「わらべ歌」では、子どもは真似をすることで「違う自分」になることができます。例えば「ひげじいさん」の歌では、両手のこぶしを顎の下に重ねて置くことで「おじいさん」に、「糸まきまき」では糸を引く動作をすることで「糸をまく人」になれます。

真似をすることで、自分ではない誰かや何かになりきり、なりきった対象の気分を想像することができます。それは子どもにとってたまらなく楽しくワクワクすることです。

④多感覚入力による強力な刺激入力

流れる音符のイメージ
「わらべ歌」では、以下のような多様な感覚からの刺激を楽しむことができます。
  • 聴覚:リズム、アクセント、メロディーなど
  • 触覚:(手遊びやふれあい遊びでの)触る、触れられる刺激
  • 固有覚:(手遊びやふれあい遊びでの)揺れの刺激
  • 視覚:視線を合わせる、動きを合わせるための視線の動き
など。

⑤運動機能、巧緻性の向上

「わらべ歌」には身体や手の動きがある歌が多くあります。

例えば「なべなべそこぬけ」では2人で手を取って振る動きがあり、身体を柔軟に動かしたり、他者の動きに合わせたりする必要があります。

「いちじく にんじん」では、「いちじく」で人差し指1本、「にんじん」で人差し指と中指を2本と、順々に指を増やしていく必要があります。

大人や友だちと一緒に遊び、「楽しい」「もっとやりたい」という気持ちでこのような動きをくり返す中で、子どもは指先を器用に、スムーズに動かすことができるようになります。

⑥保育者や友だちとのつながり

保育士の手遊び歌を真似する子ども
「わらべ歌」は保育者と子どもが一対一で向き合い、たくさんスキンシップができる遊びです。例えば「いっぽんばしこちょこちょ」は、くすぐる・くすぐられる場面を保育者と子どもで共有し、くすぐったさも加わって笑顔で楽しめます。

このような経験は、保育者と子どものつながりや絆を強くします。

また「わらべ歌」は内容や展開がシンプルで分かりやすいため、多くの子どもが参加でき、集団で楽しむことができます。

さらに、簡単ではありますが、ルールと遊びの動作が結びついている(「にんじん」と言ったら指を二本出すなど)ので、多くの子どもがルールと遊びの動作を他の子どもと共有することができます。その中で、他児との関わりや共感性が育つことが期待できます。

「わらべ歌」で遊ぶときのポイント

「わらべ歌」で遊ぶときには、以下のことに留意しましょう。

①リラックス

リズムやアクセントは強調しますが、テンポが速過ぎたり声が大き過ぎることがないように、子どもがリラックスしながら楽しめることを意識します。

身体接触も、子どもが心地良さを感じる触り方や強さを探します。

②繰り返す

手遊び歌を真似する園児
子どもの反応を見ながらではありますが、ゆっくりと、繰り返し遊ぶことが大事です。

繰り返すことで理解が進み、「わらべ歌」が子どもの記憶に定着します。

③無理強いをしない

子どもによっては、顔や頭を触られたり、くすぐられるのを嫌がったりすることがあります。また、集団で歌うときに参加を嫌がることもあります。

そのようなときは、無理強いせずに見学してもらいます。そして、リラックスして参加できる別の「わらべ歌」で遊びましょう。

発達障害のある子どもと「わらべ歌」で遊ぶときの留意点

わらべ歌「かごめ」が掘られたオブジェ
「わらべ歌」の機能で挙げた①~⑥を見ると分かるように、「わらべ歌」は発達障害のある子どもにとって、とても意義深い遊びです。

発達障害のある子どもは「楽しめる遊び」を見つけにくいことがありますが、そのような子どもでも「わらべ歌」は楽しめることが多いです。私の経験でも、知的発達の遅れが顕著な子どもが「わらべ歌」を楽しむことができた、ということはありました。

ただ、発達障害のある子の場合、感覚過敏の問題がハードルになることがあります。聴覚過敏がある子は歌自体を嫌がる、触覚過敏がある子は触られることを嫌がる、前庭系や平衡感覚に対する過敏のある子の場合には傾いたり、揺れたりすることを怖がる子どももいます。

しかし、子どもによってはそれぞれの感覚が「全く嫌」だというわけではなく、心地良いと感じ、楽しめる刺激量やスピードの「許容範囲が狭い」だけという場合もあります。

ですので、「嫌がったら、即時全面的に止める」ではなくて、ほんの少しの刺激量から試してみて、刺激を調整しながら「わらべ歌」を楽しめる方法がないか、検討していただけたらと思います。

最後に

「わらべ歌」は、長い年月にわたり、子どもたちが人と繋がる喜びや楽しみを作り出してきました。同じ歌を一緒に歌い同じ動作をする中で、安心感、楽しさ、人との繋がりが醸成されていく、素晴らしい遊びです。

楽しめる遊びが少ない発達障害の子どもとの関係づくりに、「わらべ歌」は大きな役割を果たしてくれるものと思います。

横浜市はホームページで、動画付きで「わらべ歌」・手遊び歌を紹介しています。
ぜひ参考にしてみてください。

参考:わらべうた・手遊び歌/横浜市 >>詳細はこちら

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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている

<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

>>インスタグラム

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