成人式を迎えている絵本
『良い絵本ってなんだろう?』シリーズ第3弾! テーマはズバリ成人式を迎えている絵本!『成人式を迎えている絵本』
この言葉は、出版されてから20年以上売れ続けている絵本という意味で使用されています。祖父母、父母、子どもと三世代に渡って読み継がれる絵本も多く、累計発行部数のランキング上位は、こういったロングセラー絵本が占めています。そして、当たり前のことですが『成人式を迎えている絵本』は売れているので刷り続けられ、簡単に手に入ります。
このシリーズのテーマである、良い絵本ってなんだろう? の答えのひとつは、『成人式を迎えている絵本』である! と言えると思います。
保育園に勤務していると、月間絵本を定期購読する保育士や家庭があります。月間絵本は安価で、自分では買うことのない雰囲気の絵本も手に入るため、絵本の世界を広げるのにとても有効。趣味が偏らないという長所があります。
そして、その月間絵本の中で選ばれた作品が、ペーパーバックからハードカバーになり単行本化していきます。俺はその選び方を知り得ませんが、理屈から考えると、月刊誌時に人気が高く、採算が取れると見込まれるから単行本化するのでしょう。出版社からすればもちろんそれだけではないでしょうが、出版の素人から見ればそのようなことかと…。
『こどものとも』から生み出された名作の数々
福音館書店の月刊誌『こどものとも』の中から単行本化されたものは、あの名作からあの名作まで…みんなが知っている有名な本がずらりと並びます。成人式どころか、ゆうに50歳を超える絵本もあります。最近単行本化された絵本の中にも、成人式を迎えていく絵本はあるでしょう。写真は俺と同い年の「37歳本(※2020年現在)」。 俺は『ちいさなかがくのとも(福音館書店)』が大好きです。テーマ、文字数、内容、そして何よりも大きくない小さな科学がツボで、毎月楽しみにしています。『ちいさなかがくのとも』は単行本化されると『幼児絵本ふしぎなたね』シリーズに並べられます。『でんしゃはうたう』
三宮麻由子 文 みねおみつ 絵
福音館書店 2009年
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『ちいさなかがくのとも』から生まれた絵本の中でも俺のお気に入り。視覚障害者である三宮麻由子氏が、聞こえる音の世界を文字にしたすばらしい歌絵本(俺にとっては歌絵本)。電車の走る音は「ガタンゴトン」だけではないんです。
俺の歌い読みは、多くの人が喜んでくださいます。ちょっと自信を持っています。それは、この絵本を好きな子どもと、寝られない午睡時間に繰り返し繰り返し読んでできた心地良いリズム感から生まれた自信かもしれません。この作品の本年齢は11歳! もう二分の一成人式を迎えていますね。単行本化され売れ続け、多くの人が喜ぶことから、良いか、良い(予定)絵本と言えます。
ここでちょっと巻き戻し。先ほどの本の紹介は文章だけ。絵について言うと、多くの場面が運転席か先頭車両車窓視点で描かれています。絵と文章が合わさると、まるで自分が電車に乗って揺られているかのような心地になる人が多いかと思います。
ある施設での読みあいでのこと。そこは保育園ではなく児童発達支援センター。発達支援の必要な子どもたちが通ってきています。
絵本の中の電車が出発して走り出した時、自閉症の男の子がつぶやきました。
「あれ? 電車がいない。」
目に見えることが情報の中心だったり、見えないことを想像するのが苦手だったりする自閉症。繰り広げられる車窓からの眺めに「??」な表情。途中すれ違う列車の絵を見て、「あ! いた!」と言うものの…また見えなくなる。このときは、申し訳ない気持ちで絵本を閉じました。
単行本化され売れ続ける、俺の好きな良い絵本。受け取る人によってはそうではないこともあるんだなぁと強く強く感じました。
そしてまた、逆もあり。単行本化されていない絵本、絶版になっている絵本の中にも子どもが喜び楽しみを見つけられる作品は数多くあります。
ではいったい良い絵本ってなんだろう?…つづく。
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