コロナ禍の「子どもの日」
ブラジルの「子どもの日」は10月12日。この日は例年、クリスマスに次ぐ勢いで、おもちゃ屋さんが繁盛します。しかも10月15日が「先生の日」ということもあり、10月になると、学校ではイベント一色となります。しかも、カノア保育園のあるセアラ州アラカチ市の記念日も10月25日なので、10月は違った意味で忙しい月となっています。しかし、今年・2020年の様子は違います。年度内はオンライン授業となることが決まったため、子どもたちは学校にやってきません。アラカチ市にあるどの学校に行っても、事務や先生たちの一部が出勤しているだけ。いつものようなにぎやかな子どもたちの声が全くしないのです。
カノア保育園では何をするか?
カノア保育園では、毎年「子どもの日」に遠足に行くことになっています。近年では、自分たちの住んでいる地域を知るという目的で、観光客と同じようにバギーに乗り、地域をぐるりと一周回っていました。昨年、「来年はどうしようか?」と先生たちと話していたことを、思い出します。でも残念ながら、今年は子どもたちとの遠足を実現することは出来なくなってしまいました。9月のある会議の日、先生たちに対して私は、「遠足にはいけないけど、子どもたちにとって思い出に残ることがあるといいよね。何かいいアイデアはある?」と聞きました。
そしてそれは次回までの宿題となったのです。
果たして先生たちが出した答えは、
「子どもたちの家を訪問しながら、プレゼントと手作りお菓子を渡そうと思うんだけどどうかな?」
新しい生活様式の中で最善を尽くす
そうと決まると話は早い。プレゼントは、コロナ禍の今だからこそあげたいということで、衛生用品に決まりました。歯ブラシ、歯磨き粉、石鹸にアルコール。今必要なもの。それを子どもたちにプレゼントすることにしたのです。それだけではなんだか味気がないので、お菓子を一緒に渡すことにしました。いつも子どもたちと保育園で作っていたクッキー。レシピを同封して、おうちで家族と一緒に作ってもらえるように工夫します。そしてプレゼントを持った先生たちは、一人ひとりの家を訪問するのです。久しぶりに直接会う子どもたち。8月から、月に1回は家庭訪問をし、子どもたちの状態を確認してきました。手仕事用のキットを作って、毎回届けていたのです。10月はそのキットが、特別にプレゼントに変わるのでした。
先日、私の尊敬する教育者の人がこんなことを言っていました。
「以前のように戻るなんてことは、もうありえないんだよ。これからは、新しい生活様式の中で、最善を尽くす方法を探していかなければならない。それは、今私たちに与えられた、大きな課題なんだから」
その人は、現在82歳。恥ずかしながら私は、昔のように戻ったら何しようか…と未だに考えていました。でも、そんなことはない。これからどういう風に過ごしていくか。それを考えていかなければいけないのだと、改めて実感したのでした。
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鈴木真由美(著)
発刊:2020年8月20日 ブラジル北東部、世界的観光地のカノア・ケブラーダに隣接する貧しい漁村エステーヴァン村。
麻薬と売春の渦巻く環境の中で暮らす子どもたち。
親たちから託された願い。
それは“村に保育園を作る”ことだった。
「子どもたちに、これからの社会で生きていけるだけの力を」
サンパウロのファベーラ(スラム街)の保育園を経てエステーヴァン村にやってきた著者。
親たちの願いを受け村人たちと共に保育園作りに奮闘し、村が「未来に夢を持てるようになった」と言えるまでの道のり20年を、子どもたちのエピソードとフルカラー写真で鮮やかに描く。
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