良い絵本の反対は『悪い絵本』?
今回は、良い絵本を考察してきた中でふと思い浮かんだ『良い絵本の反対は悪い絵本なの?』というテーマについてあれこれ考えていきたいと思います。俺は自分の中で保育士として、絵本専門士として決めていることがあります。それは、
絵本(作品)を完全否定しない!
ということです。自分にとっては読みにくいと思ったり、絵が好みではなかったりする絵本はあります。しかし、それは俺以外の誰かにとっては心が動く絵本かもしれません。
俺の好みではない絵本と、誰かの心が動く絵本が同じだった場合…その絵本を否定してしまうと、その人の絵本に対する気持ちまで否定してしまうことになりかねません。とまぁ偉そうなことを言っていますが、こんなことを考えられるようになったのは、実際には絵本専門士になり、多様な価値観に触れるようになり、視野が広がってきてからのことです。それまでは、好みではない絵本を受け入れることが苦手でした。
今回のタイトルにもある『悪い絵本』。実は似ているタイトルの絵本があります。
『悪い本』 宮部みゆき 作
吉田尚令 絵
東雅夫 編
岩崎書店 2011年
[怪談えほん (1) 悪い本]
岩崎書店の怪談シリーズの中でも、特に不気味な存在を放っております。読後感も含めてトップクラスの怖さ。しかし、これが文字通り『悪い絵本』かというとそうでもなく、実際は好んで繰り返し読むこともあります。俺はこれを子どもたちに向けて読んだことはないので、今はまだ自宅の本棚に鎮座しております。
苦手な絵本は悪い絵本?
大好きな絵本作家のtupera tupera(ツペラツペラ)作品『こわめっこしましょ』
tupera tupera作
絵本館 2018年
[こわめっこしましょ 大型本]
ある時クラスの子どもたちにこの絵本を読みました。読んでいくと、表紙のにこやかな一つ目小僧が豹変し、ものすごく怖い顔になります。その瞬間、一人の女の子が跳びあがり、保育士の陰に隠れました。もうその後は絵本を直視できない様子。他の子どもたちは喜んでいました。更には、違う日に俺が他の絵本を読もうとしても、「またあれを読むんじゃないか?」という顔でこちらを見てきます。結局その年度は、この本はほとんど読まず、読んでも女の子が休みの日に読みました。
そのエピソードをtupera tupera氏に伝えると、「そうか~、それは自分たちの絵がちゃんと怖かったってことだな」と言っておられました。確かに怖い(笑)
そして今のクラスでは、「怖い」も含めてこの絵本を楽しめています。今後は分かりません。同じ絵本でも、苦手な子もいれば、楽しめる子もいます。
絵本は読んだ人がその評価を決める
どんな絵本を読んでも、手にとって読んだ人がその絵本の評価を決めると良いと俺は思っています。これは『良い絵本ってなんだろう』シリーズを通して伝えてきました。しかし、保育園や幼稚園では、複数人や集団での絵本の読みあいの場面が多くあります。
- みんなと冒険に出て楽しい。
- ひとりで読んだら怖いけど、みんなで読んだら楽しい。
- みんなは楽しそうだけど、私はそうでもない。
- 先生が好きな絵本は私も好き。
- その反対。
発売当時は、まだ絵本に直接的な教育的要素が求められていた時代。『ノンタン絵本』は酷評されました。しかし、時代と共に子どもたちに受け入れられ、今ではこんなにたくさんの著書が並びます。俺も子どもの時に読んだ絵本は今でも覚えています。
さて、タイトルに書きました。
良い絵本の反対は悪い絵本?
違います。絵本は、空気のように、読む人によって如何様にも形を変えていくからこそ面白く、懐が広くて深い。これまでのコラム『正しい絵本の読み方』『良い絵本ってなんだろう』シリーズはそれぞれ独立しているのではなく、繋がっています。
その時、その場面、そのメンバーで絵本の読みあいを楽しんでいきましょう。このコラムを書いていたら、明日は何の絵本を読もうかワクワクしてきました♪…あっ、でも結局考えていても大抵その通りにはいかず、ワクワクした以上に読みあうんですけどね。
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