保育園で起きたバス内熱中症の死亡事故
2021年(令和3年)7月、福岡県の保育園で、送迎バスの中に取り残された5歳の男の子が熱中症で死亡するという痛ましい事故が起きました。報道によると、朝の登園バスから男の子は降りてきておらず、またそのまま1日不在だったにもかかわらず、保育者は確認をしなかったそうです。バスの降車時に車内の確認を怠ったこと。登園していないのに誰も気にせず「今日はお休みだ」と片づけてしまったこと。保護者に確認の連絡がなかったこと。さまざまな要因が重なり、このような取り返しのつかない事故となってしまいました。
この報道を見て、保育士の皆さんはどのようなことを感じましたか? さまざまな声が聞かれますが、同じ保育者として他人事ではありません。このような事故を防ぐためにも、改めて自分が働く園での安全管理について、見直していきたいですね。
保育施設での事故は年間2,015件
内閣府が公表している『令和2年教育・保育施設等における事故報告集計の公表について』には、令和2年(2020年)1月1日から12月31日の期間内に報告があった事故についてまとめられています。ここでは「死亡事故、治療に要する期間が 30 日以上の負傷や疾病を伴う重篤な事故」が集計されていますが、その内訳を見てみましょう。意識不明 | 14件 |
骨折 | 1,660件 |
火傷 | 6件 |
その他 | 330件 |
死亡 | 5件 |
「ハインリッヒの法則」という、労働災害の調査から導き出された発生比率の法則によると、1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故があり、300件のヒヤリハット事例があると言われています。これら2,015件の事故の背景には、多くのヒヤリハットが発生していると考えられます。
元気いっぱいの子どもたちなので、保育者が気を付けていても転倒したり小さなケガをしたりすることはもちろんあるはず。その中で、どこに危険があるか予測して注意を払ったり、職員間で一度起きた事故やけがは共有したりすることが大切ですね。
また、年齢別での発生件数もまとめられています。
0歳児 | 12件(1件) |
1歳児 | 72件(2件) |
2歳児 | 161件(0件) |
3歳児 | 216件(0件) |
4歳児 | 351件(2件) |
5歳児 | 519件(0件) |
6歳児 | 255件(0件) |
放課後児童クラブ等 | 429件(0件) |
年齢別に見た結果、全体の数では5歳児が多く519件となっています。年長さんになると活動範囲も広く、活発になるので、ケガをしてしまう場面も多くなるようです。
また()内の数字は、そのうち死亡事故に至ってしまったケースです。4歳児の2件の原因はいずれも窒息、また0歳児・1歳児の3件のうち1件が窒息、1件がSIDS(乳幼児突然死症候群)となっています。保育施設での死亡事故の中で、毎年必ずと言っていいほど挙がってしまうのが「窒息」です。睡眠中や食事中に起こることが多く、特にうつぶせ寝になりやすい乳児クラスではSIDSの危険もあり、こまめなブレスチェックが必須となります。
これ以外にも、保育のさまざまな場面で事故が起こる可能性があります。日頃から事故防止対策を怠らないことや、マニュアルなどを作成して徹底した対応を取ることが必要ですね。
参考:『「令和2年教育・保育施設等における事故報告集計の公表について」』
現役保育士に聞いた「ヒヤリハット」事例
保育中に「ヒヤリ・ハット」した経験の割合
ある | 1,516件(95.2%) |
ない | 77件(4.8%) |
実際に起きたヒヤリハットのエピソード
(実際に経験したヒヤリハットのエピソードをフリー記述で質問。グラフは、その中でも多かった回答をグルーピングして集計)実際にどのようなヒヤリハットが起きたのか、保育者に聞いてみたところ、フリー記述で136件もの回答がありました。その中でも特に多かったのは「転落(29件)」でした。滑り台やブランコなど、遊具からの転落はヒヤリハットとして挙げられることがとても多く、見守り体制の重要さを改めて認識されられました。
続いて「保育室/散歩からの抜け出し(19件)」が2番目となりました。具体的には、「気付くと保育室内や公園からいなくなっていた」といった事例です。場合によっては交通事故など重大な事故に繋がる可能性もあるため、決して見過ごせないヒヤリハットです。こまめな人数チェックや目が届く範囲での活動など、遊ぶときの工夫が必要ですね。
またその他にも、以下のようなエピソードが集まりました。
- 大きな石を拾って急に投げた子がいた
- 枝豆ご飯の枝豆を鼻に入れた
- おままごとで絵の具のジュースを飲む真似をしていて、ペットボトルのキャップが外れかけた
- トイレに園児を置き去りにした先生がいた
- 子どもが机をひっくり返した
事故防止のためにできること
例えば子どもたちのケガの中には、どれだけ保育士さんが気を付けていても防ぎきれないものも残念ながらありますよね。しかし冒頭で挙げた園バスの事故は、バス内の点検や出席確認などを普通に行っていれば防げたものです。では、このような事故を防ぐために保育士さんはどのようなことをすれば良いのでしょうか。こまめな確認
戸外活動中やお散歩前後など、こまめに子どもたちの人数確認を行いましょう。人数確認は当然のことながら、バタバタするとつい適当にしてしまいがちです。しかし子どもたちは、年齢が上がると特に行動範囲が広くなり、大人が思う以上に遠くまで歩けます。私が以前耳にしたヒヤリハットの中には、「公園から出て外にある歩道橋を反対側まで渡っていた」というものがあります。一緒に楽しく遊ぶこともとても大切ですが、確認は怠らないようにしましょう。保育士の役割分担
夏になると、残念なことに毎年プールや水遊びでの事故もよく耳にします。中でも「保育士が目を離した隙に…」というのは、よく聞く理由です。しかし皆さんもご存知の通り、プール活動は必ず指導をする保育士とは別に、監視役の保育士を配置しなければなりません。監視役になったら、それ以外のことはしてはいけません。このように、プール活動に限らず保育士が役割分担をしっかりとすることも、事故を防ぐひとつのポイントです。保育士間のホウレンソウ
「伝わっていると思った」「他の先生が話していると思った」という思い込みで事故が起こる可能性もあります。「もし既に知っていたら、何度も言うのは申し訳ない」と感じるかもしれませんが、面倒でも何度目になっても、報告・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)は必須です。保育士同士のコミュニケーションは、子どもの安全のためにも重要。人任せにせず、大切なことは必ず自分で伝えるようにしましょう。保護者との連携
「その日の子どもの体調を共有すること」「ケガをしてしまったらしっかりと伝えること」など、日々の小さなコミュニケーションの積み重ねはとても大切です。不安なことや気になることはお互いにしっかりと伝え合い、共に子どもを育てていく気持ちを持てると良いですね。リスク管理が事故を防ぐ
保育園や幼稚園は、たくさんの子どもたちが過ごす場であるため、事故が起きやすい場面もあります。他園で起こるヒヤリハットは、どこでも起こり得ることです。保育士さんの日々の対策や危険を予測すること、そして職員間での共有が事故を防ぐ第一歩です。子どもたちが楽しく過ごせて、保護者が安心して預けられる、そんな園でありたいですね。調査期間:2021年8月17日(1日)
調査方法:公式Instagramアカウントでアンケートを実施
調査対象:Instagramユーザー
有効回答数:『Q 保育中に「ヒヤリ・ハット」した経験が?』1,593件/『保育中「ヒヤリ・ハット」したエピソードを教えてください(フリー記述)』136件
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