保育園で流行りやすい春の感染症

対策をしていてもなかなか防げないのが病気の流行です。春先の保育園には、感染症が流行りやすいいくつかの理由があります。
①環境の変化による免疫力の低下
身体が十分に発達していない乳幼児は、もともと体力と免疫力が大人ほど高くありません。環境の変化やストレスは、免疫力を低下させ感染しやすくなる原因になります。②新年度で集団生活がスタートする
乳幼児の場合、咳エチケットなどを徹底できず、床を這ってなんでも口に入れてしまうことが、飛沫感染、接触感染のリスクを高める要因です。その上、保育園では密な状況で食事や睡眠、遊びを行うために、子ども同士が日々自然と濃厚接触してしまいます。
③春特有の感染症が広がりやすい
春に流行のピークを迎える感染症があります。上記の背景に加えて特定の感染源の菌やウイルスは春の湿度や気温を好むためです。本記事では、春に保育園で流行しやすい代表的な感染症とその特徴をまとめました。
春に流行する感染症 ①溶連菌感染症

溶連菌感染症は、文字通り溶連菌(A群溶血性連鎖球菌)という細菌に感染することで発症します。
主な感染経路は飛沫感染(咳、くしゃみ)と接触感染です。
のどの痛みと高熱が主な症状で、皮膚に感染すると伝染性膿痂疹(とびひ)を発症します。
原因・症状・潜伏期間
原因
A群β溶血性連鎖球菌による感染症状
- 発熱(38℃以上)
- のどの痛み
- いちご舌(下に赤いぶつぶつができる)
- 皮膚の発赤
合併症に注意が必要で、発症後数週間でリウマチ熱や腎炎を起こすことがあります。
潜伏期間
2〜5日間、7〜10日間(とびひ)保育者にも感染するおそれがあるため患児と接する際には気をつけましょう。
治療内容
溶連菌は菌なので、抗菌薬(抗生物質)が有効です。抗菌薬投与後24時間以内に感染力はなくなります。また、治療のポイントは、「症状が落ち着いても抗菌薬を飲み切ること」です。
処方の際にお伝えするのですが、症状が改善すると内服を終了してしまう保護者の方は、実は少なくありません。中途半端に内服をやめてしまうと、再発したり、重篤な合併症を起こしたりすることがあります。
予防法・登園再開の目安
予防のポイント
十分な手洗い登園再開の目安
感染力がなくなるタイミング。つまり、抗菌薬を飲み始めてから24〜48時間が経過していることです。※保育園によっては、登園再開に医師の記入した登園許可証が必要になることがあります。
出典:保育所における感染症対策ガイドライン(2018 年改訂版) https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/fukushi/051010guideline
春に流行する感染症 ②おたふくかぜ(流行性耳下腺炎、ムンプス)
春に流行る感染症として有名なおたふくかぜの主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。耳の下にある耳下腺(唾液腺)が急に腫れて痛みを伴います。受診される典型的なエピソードは、「片側だけが先に腫れて、数日経った頃に反対側も腫れてきた」というものです。
原因・症状・潜伏期間
原因
ムンプスウイルスによる感染症状
- 耳下腺の腫れと痛み(2〜3日間でピークを迎え、一週間を目処に消えていきます)
- 耳下腺の痛みによる食事摂取不良、会話困難
- 顎下腺(顎の下の唾液腺)の腫れ
- 発熱
- 頭痛
- 倦怠感 などの全身症状
※髄膜炎、難聴などの合併症を起こすことに注意が必要です。
潜伏期間
16〜18日間治療内容
特効薬がないため、対症療法を行います。耳下腺の腫れは、冷やすことで痛みが和らぎます。合併症の兆候が見られたら速やかに医療機関を受診しましょう。
予防法・登園再開の目安
予防のポイント
ワクチン接種が有効です。母子手帳で確認して1歳以上で未接種の場合には接種を促します。※妊婦が妊娠初期に感染すると流産のリスクが高まります。保護者を含めて妊娠初期の方には注意喚起を行いましょう。
登園再開の目安
発症から5日経過した時点で腫れがひいていれば登園可能です。出典:
流行性耳下腺炎|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-27.html
流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ra/mumps/010/mumps.html
麻疹(はしか) 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)| 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou16/pdf/01i.pdf
春に流行する感染症 ③水ぼうそう(水痘)
水ぼうそうは水痘帯状疱疹ウイルスによる感染で生じます。全身に広がる水ぶくれのような(水疱性)発疹とそれに伴う痒みが特徴的です。主な感染経路は飛沫感染と空気感染です。感染力が非常に高い点に注意しましょう。発症している人と同じ部屋にいた場合は、ほとんどの場合、感染が成立しています。
原因・症状・潜伏期間
原因
水痘・帯状疱疹ウイルスによる感染症状
- 発疹が顔や頭部に出現して全身に拡がる
- 発疹は、赤いポツポツから水ぶくれになって、かさぶたになる(かさぶたになれば感染力なし)
潜伏期間
14〜16日間治療内容
基礎疾患がなければ自然に軽快して、基本的に追加の治療は不要です。(基礎疾患があり、重症化リスクが高い場合には抗ウイルス薬を投与)予防法・登園再開の目安
予防のポイント
ワクチン接種が有効※罹患したことがない患児がウイルスに曝露したと考えられる場合には、72時間以内に緊急的にワクチンを接種することで発症を予防できることがあります。
※妊婦が感染すると、胎児への影響があることや妊婦の重症化リスクが高いため、発生した際には感染対策の徹底とともに注意喚起を行いましょう。
登園再開の目安
すべての発疹がかさぶたになること出典:水痘ワクチン|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/chickenpox/index.html#h2_free1
春に流行する感染症 ④風しん(風疹)
風疹は風疹ウイルスによる感染症です。全身に紅斑性の発疹が現れることと、その経過が特徴的です。主な感染経路は飛沫感染です。
原因・症状・潜伏期間
原因
風疹ウイルスによる感染症状
- 紅斑性発疹(顔や首から全身に拡大しますが、約3日で消えて痕も残りません)
- 発熱
- リンパ節の腫れ
- 悪寒、倦怠感 など
潜伏期間
14〜21日間治療内容
有効な治療法はありません。風疹は基本的に軽症で、自然に軽快します。予防法・登園再開の目安
予防のポイント
ワクチン接種が極めて有効です登園再開の目安
発疹が消失していることが目安出典:風疹について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html
春に流行する感染症 ⑤感染性胃腸炎

子どもの感染性胃腸炎は、ロタウイルスとノロウイルスの2種類による感染が主です。春に問題となるのはロタウイルスです。感染力が高く、5歳までにはほとんど全ての子がロタウイルスに感染します。
2020年からはワクチンが定期接種に含まれるようになりました。主な感染経路は経口感染、飛沫感染、接触感染です。
原因・症状・潜伏期間
原因
ロタウイルス(春)、ノロウイルス(秋から冬)による感染症状
- 吐き気、嘔吐
- 下痢(白色便)
- 腹痛
- 発熱
※稀に脳症を合併して、けいれんや意識障害を起こすこともあります。
潜伏期間
1〜3日間治療内容
特異的な治療はありません。水分補給が重要です。飲水も難しい場合には点滴します。
予防法・登園再開の目安
予防のポイント
乳児期に経口摂取できるワクチンが予防に効果的です。他には、吐物や便の処理を適切に行いましょう。
ウイルスが多量に含まれている上、少量のウイルスで感染が成立するためです。
他に、タオルの共用は避けましょう。感染している患児がいる間だけでもペーパータオルを使用すると効果的です。
登園再開の目安
嘔吐、下痢症状が落ち着いていることは前提として、普段の食事が摂れることが目安になります。※登園を再開しても、ウイルスは便に3週間以上排出されるため、おむつ交換などは十分注意しましょう。実際、登園再開後に感染が拡大するケースもあります。
出典:
ロタウイルスワクチン|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/rota/index.html#h2_free1
感染性胃腸炎 特にロタウイルスについて|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/norovirus/
春に流行する感染症 ⑥ヒトメタニューモウイルス感染症
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