今回は、最初のケースの回答編ということで、「困った行動」への対応の基本についても書きました。ちょっと長くなってしまうので、回答編は6月と7月の2回に分けてお届けします。
では前回のケースを思い出しましょう。
>>発達障害のある子の保育とは?児童発達支援の専門家コラムがスタート
紙芝居の時間に、隣の翔太君を叩いて泣かせてしまう4歳の竜星君(※)。
なぜ、竜星君は翔太君を叩くのか、竜星君にどう対応したらいいか? というお話でした。
「この子はなぜ叩くのでしょうか?」
保育の現場でよく見かける光景です。特に発達障害のある子はよくこういうことをします。ここで皆さんに2つ質問をします。
Q1 なぜ彼は叩くのでしょうか?
Q2 1で答えた理由で叩くのだとあなたが考えた理由は何ですか?
どうでしょう?
保育士Aさんの答え
Q1 なぜ彼は叩くのでしょうか?
A1 乱暴な子で、叩くことが悪いと思っていないから
Q2 「乱暴で叩くことが悪いと思っていないから叩く」と考えた理由は何ですか?
A2 翔太君を叩くから
ありそうな答えです。
でもこうやって問いと答えを並べてみると変だなと思いませんか? 乱暴だから叩く、そう思う理由は叩くから、というのは「右は左の反対、左は右の反対」と同じで、一見もっともらしいが実は何も言っていないのです。このような考え方を循環論といいます。「乱暴だから叩く」は循環論であって、子どもの行動の「理由」は結局解明されていません。
竜星君は乱暴だから叩くと考える先生は、竜星君に「叩いてはだめよ」と言い、「もうしません」「ごめんね」を言わせたりします。
でもその方法では「叩く」行動は減らないことが多い。特に発達障害のある子の場合、ほぼ効果はありません。行動の理由を正しく理解しないで対応しているからです。
ではどうすれば竜星君が叩く理由を正しく理解し、適切な対応がとれるのでしょう。
『だから、だってフォーム』を使って仮説を立てる

〇〇と●●に入るものを考えるときには、コツがあります。①静かに ②その行動だけでなく普段の様子を観察し、③竜星君の気持ちを想像しながら理由を考える、ことです。
①静かに
これは「ああしろこうしろ」と指示しないで観察するという意味です。指示されてする行動では、子どもの本当の気持ちは見えにくいです。指示がないときどう行動するか、例えば自由遊びの時間に何で遊び、何を見ているか、誰といるか、などを見ます。
②その行動だけでなく普段の様子を観察する
「叩く」行動の前後だけでなく、普段の様子、翔太君との関係、どういうときに叩くか、どういうときには叩かないのか、誰でも叩くのかなどを見ます。
③子どもの気持ちを想像しながら理由を考える
①②で観察したことに基づいて子どもの行動の理由を想像します。このとき、保育士の側の「こうあってほしい」(叩かないで、騒がないでなど)という希望は横に置いて、子どもの気持ちを想像してください。「横に置く」のは難しいことだと思いますが、ここが肝心です。
実は『だから、だってフォーム』はこの「子どもの気持ちになって考える」ことを助けるツールです。このフォームを使って考えることで、自然と「保育士の立場で行動の理由を考える」から、「子どもの立場で考える」ことにシフトできます。
〇〇、●●に入るものを考える=「仮説」を立てたらそれを確かめます。仮説に基づいた対応で子どもの行動が変わったらその仮説は正しかった、もし変わらなかったらそれは間違った仮説・理解だということです。一発で当たらなくても、いくつか仮説を確かめるうちに「これだったのかあ」と子どもの行動の理由が正しく理解できます。
竜星君の場合
竜星君の例で考えてみましょう。仮説1
「紙芝居が難しくてわからないから退屈で翔太君を叩いちゃうんだ(〇〇)。だって叩くと翔太君が反応するから紙芝居がわかんなくてもイライラしないもの(●●)。」
対応:竜星君にもわかる紙芝居を読む、難しい内容のときは保育士の膝の上で聞く、ページめくり係をやってもらうなど。
仮説2
「大好きな翔太君が気になって手が出ちゃうんだ(〇〇)。だって叩くと大好きな翔太君が僕を見てくれるもの(●●)。」
対応:翔太君が見えない席に座らせる、竜星君と翔太君の間に保育士が入るなど。
竜星君にもわかる内容にして竜星君が叩かないなら仮説1がビンゴです。毎回竜星君向きの紙芝居にはできませんが、「叩く理由」がはっきりすれば、状況に応じて対応は考えられます。
翔太君が見えない席にしたら他の子を叩くことはしないのなら仮説2がビンゴでしょう。
ところで発達障害のある子どもの場合、定型発達の人にとっては想像もつかないことが理由であることがあり、なかなか〇〇、●●のビンゴ!がみつからないことがあります。そこは発達障害の子どもの特性について知識を増やしていくしかなく、このコラムでも順次お話していきます。竜星君の例だと「力加減がわからなくて、ちょっと触ったつもりが叩いてしまった」という場合があります。
そのときには「保育士が間に入って叩けない状況を作りながら、別の活動で「そぉーっと」と触る、強く叩くなど、力の強弱を学べるようにする」という対応が考えられます。
ところで、「乱暴な子だから叩く」として対応するのと、『だから、だってフォーム』を使った対応は、竜星君にとっては何が違うのでしょうか?
次回はそのことについてお話したいと思います。
※お子さんの名前はすべて仮名です

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