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子どもに委ねる時、心が育つ【自然の中で見つける保育】

子どもに委ねる時、心が育つ
自然の中での保育を専門にしている野村直子さんによる「子ども」と「自然」をテーマにした連載をお届けします。>>連載の記事一覧はこちら  

森の中で虫探し

森で虫を捕まえようとする子ども
以前行った秋の親子イベントでの出来事です。

その日、5歳のタロウくんは虫網と虫かごを手に持ち、「きょうはむしをつかまえたいの!」と張り切っていました。もう一人、5歳のカンタくんもそれを聞いて「ぼくもほしい!」と、我先に森の中へ入っていきました。

タロウくんの歩く姿から、”虫好き”が伝わって来ました。慎重に草むらを探しながら歩き、時々森の中を見回して、大きな樹の幹や根元をくまなく観ている姿でした。

一方でカンタくんはがむしゃらに森の中を歩いているので、虫はなかなか見つかりません。なのですぐに「なんにもいないよ!」と言っていました。

カミキリムシを捕まえたのは・・

私はタロウくんと一緒にゆっくり歩いて、虫が居そうな樹や草むらを探していました。すると、目の前の樹の幹に大きなカミキリムシが止まっているのを見つけました。

私はタロウくんに「あの樹になにか居そうだね」と言うと、タロウくんはすぐにカミキリムシを見つけ「あ!!いた〜!」と駆け寄りました。その声を聞いたカンタくんも駆け寄り、「ぼくもほしい!」と言っていたので、タロウくんはきっとカンタくんに取られるとでも思ったのでしょう。

焦って捕まえようとするも、カミキリムシを捕まえるのは初めてで、タロウくんの手は震えていました。手が震えてなかなか捕まえることができません。

後から来たお父さんお母さんが集まってきて、「何がいるの?」と覗き込んでいました。

すると、一人の虫好きなお父さんがカミキリムシをあっさりと捕まえて、持っていってしまったのです。そして戻って来た時には、自分が持ってきた観察しやすい入れ物にカミキリムシを入れて「はい」とタロウくんに渡しました。

それを見たカンタくんは「ぼくもほしかった〜」と言いました。

大人の行動

このやりとりをみなさんはどう思いますか?

自分もこのお父さんのようにしているな〜という方もいるかもしれません。

この行動は、良かれと思ってのことです。子どもが欲しがっているから、手が震えるほどだから代わりに捕まえてあげて、よく見えるようにしてあげようという親心からの行動です。

その気持ちもよくわかります。悪いという訳ではありません。

でも、この瞬間にタロウくんの体験を大人が奪ってしまったのです。

すると、今度はカマキリを見つけたお母さんが「ここにカマキリがいるよ」と声をかけてくれました。見るとそこには大きなカマキリ。すかさずタロウくんは駆け寄り、今度こそ自分で捕まえようとしました。

さっきの虫好きお父さんが、またもや”どれどれ、捕まえてあげよう”という様子で近づいて来たので、私はその場で「今度は子どもに任せてみましょう」と声を掛けました。

「ほしい!」から「つかまえたい!」へ

タロウくんは、大きなカマをもたげたそのカマキリと対峙し、手を震わせながらも、ガバッと捕まえにいくとカマキリのカマに挟まれてしまいました。

タロウくんは「いたい、いたい」と振り解き、カマキリは下に落ちました。でも目を離さずにすかさず駆け寄り、カマキリのお腹を捕まえて無事に自分の虫かごに入れることができました。

その時のタロウくんの満足そうな表情が印象的でした。

その姿を見ていたカンタくんも、自分も捕まえたいという気持ちが高まり、何かいないか探していると今度は樹の幹に小さな水色のカミキリムシを見つけました。

カンタくんには、”怖い”という気持ちと”捕まえたい”という気持ちの葛藤が見られました。

でも大人の誰かに「つかまえて」とは言わずに、手をブルブル振るわせながら、何度か捕まえようとするけれど、噛まれそうで怖くて、どう捕まえたらいいかわからない様子でした。

私は「顔からじゃなくて、体のところを後ろから持つといいよ」と伝えました。

カンタくんはそれを聞いて、意を決したように掴みました。掴んだその手も、怖くてブルブル震えて入れ物に入れる前にパッと離してしまいポトっと落としてしまいましたが、すぐに自分で捕まえて、無事に虫かごに入れることができました。

どんな体験をしてもらいたいか?

虫を捕まえた子ども
最初の頃のカンタくんは「ほしい!」という欲求が強く見られました。でも、この体験をした後は、”見つけること”と”捕まえること”を愉しみ始めました。

人によっては、私がしたように捕まえ方を教えずに待つ人もいるでしょう。

ブルブルと震えている手を見て、代わりに捕まえてあげたいと思う人もいるでしょう。

私は、その時々の自分の気持ちと子どもの様子を見ての対応で良いと思っています。ただし、子どもに”どんな体験をしてもらいたいか?”という意図は大切です。

「かわいそうだから」「子どもだから」と手出しをしては、子どもの体験にはなりません。

子どもに委ねた時、子どもの眼が真剣になり、ぐんと心が育つ体験となるのです。

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野村直子(のむら なおこ)

この記事を書いた人

野村直子(のむら なおこ)

「子ども」と「自然」をキーワードに国内外での保育と自然体験活動などの経験を重ね、 “森のようちえん”という自然保育の活動に関わる。小規模保育室園長を経て、現在は新しい視点で子育ての質を伝えて行くため『new education LittleTree』代表として研修事業をメインに活動中。
<ホームページ>
https://www.new-edulittletree.com/

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