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仏教保育の核心は『柔軟だけど芯がある』~妙福寺保育園の活動【園レポートVol.1】

妙福寺保育園のホール
さまざまな角度から保育のいまをお伝えする企画「ほいくのカタチ」。今回は、お寺の隣で保育園を運営し、仏教を大切にした保育を行う妙福寺保育園を取材させていただきました。保育スタイルが多様化する中、歴史のある仏教系の保育園がどのような理念のもとに保育を行っているのか、その魅力に迫ります。

“地域に貢献したい”想いからのスタート

妙福寺保育園は、東京都練馬区にある認可保育園です。お寺の隣に園舎を構え、平屋の落ち着いた雰囲気の中に明るい子どもたちや先生の声が響いていました。ここで園長を務めるのが、妙福寺の住職でもある戸田了達さん。園の歴史や理念について、お話しを伺いました。
「妙福寺保育園は昭和30年開園です。その頃はまだお寺の周りに農家が多く、赤ん坊を畑の脇に寝かせて作業をするようなこともあったそうです。当時住職だった私の祖父は、そんな状況を見ながらお寺のできる社会貢献は何かと考えていたそうです。その時に知人から勧められたのが、保育園だったんです」

最初はお寺の本堂の1/3を保育室に改装して始まったという妙福寺保育園。今では広い平屋の園舎に、134名の子どもたちが生活をしています。

仏教の教えに基づいた活動とは?

仏教保育を行っている保育園の活動には、どのようなものがあるのか気になりますよね。今回は、年間を通した活動や毎日の生活から見られる理念をご紹介します。 

“三仏忌”を柱にした活動

「1年の流れの基本にあるのは、三仏忌(さんぶっき)です。これは、『4月8日、お釈迦様が生まれた日』『12月8日、おさとりを開いた日』『2月15日、亡くなった日』として、大切にされている仏教の聖日です」

この三仏忌に基づいて、4月には“花まつり”を開催。12月にはお遊戯会を行い、年長クラスでお釈迦様の半生を描いた劇を。そして2月には、お寺の本堂でお焼香やお参りをするそうです。

その他にもお盆には精霊祭り(しょうりょうまつり)といい、ご先祖様をお迎えするために園に祭壇を作り、お供えをする行事も行っています。

「精霊祭りでは、ご先祖様だけでなく亡くなった園に関わった方々などが、ここに来てくれるんだよということを伝えています」

このような行事を通して、“常に仏様やご先祖様に守られていることを感じてもらえたら”という願いが込められているそうです。


お誕生日会に潜入!

取材に伺った日は、ちょうど10月のお誕生日会。そこで、私もその様子を見せていただきました。

妙福寺保育園でのお誕生日会でまず始めに行われるのは、仏様へのお供え。誕生月の子どもたちが、順番にお花やお菓子をお供えしていくところから始まります。

「子どもたちは、毎日見えない仏様に守られて過ごしているという意識があるように感じます」とお話しする園長先生の言葉通り、その姿はとても頼もしく落ち着いていました。

また、園長先生のお話しをしっかりと聞く姿も印象的でした。授業に臨むときのように集中を求められるような姿勢ではなく、子どもたち自身が心の整え方を知っているのではないか、そんなことを感じました。

お供え後はみんなで歌ったり、先生による劇などの出し物を楽しみお誕生日会は終了。素敵な会に参加させていただくことができました。

「当たり前」の中にも感謝を

お誕生日会の後は、給食にも少しお邪魔させていただきました。妙福寺保育園の給食は、このような言葉から始まります。

「一粒のお米も、一滴のお水も、みんな仏様のお恵みです。仏様ありがとう。お父さまお母さまありがとうございます」

妙福寺保育園では、毎日“当たり前”だと感じるようなことも、常に感謝の気持ちを言葉にして表します

子どもたちは、保育園を出ても「いただきます」と手を合わせる習慣がつき、保護者からも喜びの声があがっているそう。当たり前に思えることですが、意味や目的を知ったうえで実践することはとても大切ですよね。

保育者としての想い

仏教園ならではの活動や行事を知ったところで、園長先生に詳しくお話しを伺ってみました。

感謝と自己反省を常に心に

(写真:戸田了達園長)

妙福寺保育園の保育理念はどのようなものでしょうか

「園の保育目標が3つあります。それが、『感謝の気持ちを持てる子』『助け合う子』『明るい子』です。

保育園は集団生活ですし、社会に出ても集団生活は続きます。人は自分ひとりでは生きていけないのです。だからこそ、自分を見つめ、人のことを考え、いつも助け合っていってほしい。そして心が素直で明るい子に育ってほしいです」

妙福寺保育園での保育を通して、お子様たちに身に付けて欲しい力などはありますか?

「自分自身の中で『感謝』と『自己反省』の心を常に養ってほしいです。感謝の心は大切ですね。人も物も、出会ったものは自分を助けてくれます。時には嫌な人に出会ったり、嫌な出来事に直面することもあるでしょうが、それを通して考えたり学んだりすることで自分の力となります。

ただ、それを理屈で教えるのは難しいです。なので毎日仏様に手を合わせ、ひとつの具体的な姿として根付かせています。また感謝をするだけでなく、常に自分を振り返って反省し、自分を見つめなおすことも大切にしてほしいですね」

日々お子様方の姿を見ていて、園長先生のお考えが反映されているなと感じる瞬間はありますか?

「以前、年長組の子が遊んでいるとき、『僕ね、仏様と約束しているから、いい子になるんだよ』と話してくれたことがありました。その他にも、きれいなお花を摘んできたら『仏様にお供えしなきゃ』とまず手を合わせる。先生と約束しているから、というよりも、目に見えない自分の中の仏様に約束をしていることを感じるときはうれしいですね」

自然とそのような考えが身についているのですね

「仏教の根本は『すべて自分の問題』ということです。生きていれば嫌なことにたくさん出会いますが、そもそも出会いを選ぶことはできません。出会ったものを『嫌なこと』と受け止めるかどうかは自分の心の問題なのです。そこでむしゃくしゃして人に嫌なことをする、嫌なことを言うのも、すべて自分自身です。
なので、自分で自分を律するということはすごく大切で、仏教保育の中ではそれを『先生が言うから』ではなく、心の中の仏様と自分が約束をしていくのです。だからこそ、子どもが嫌な気持ちになっているときは大人が受け止めてあげることが大切です。『嫌だよね』と背中をさすってあげるだけでも、『嫌だと思うことは悪いことじゃないんだ』と思えるでしょう。

また、自分を認めてもらっているという安心感も生まれますよね。嫌なことを言ったりやったりすることは良くない、でも我慢もしなくてはいけない、そこで我慢できた自分を認めてあげる、その繰り返しで、感情を処理してコントロールできるようになっていくのです。保育者の寄り添い方は大切です」

保育者としてのやりがいはどのようなところでしょう

「私は園長でもあり、お寺の住職でもあります。なので、仏教の教えをもっと広く知ってもらいたいと思っています。仏教は、“人が安らかに幸せに生きていくための道”を説いているのです。

妙福寺保育園での生活を通して、子どもたちに自然とそのような話をすることができますし、保護者にも穏やかな気持ちで接することができます。ここに来て、安心したり救われたりという機会を作ることができるのが一番うれしいですね」

妙福寺保育園の魅力はどのようなところですか?

“柔軟だけど、芯がある”ですかね(笑)。仏教に縁起という教えがあります。ものごとは出会いによって変化するという教えです。今まで正しいと思っていたことも、状況によって変わったりします。その変化を恐れずに受け止めることを大切にしているので、そこには芯のようなものが必要になります。

例えば「この人はこんなふうに思ってるんだ、自分とは違うけどそういう考えもあるんだ、じゃあどうしようか」と、相手や状況に合わせて大切なことが何かを考え直していくことができます。そこにあるのは柔軟性ですよ」

優しい空気の中で育つ子どもたち

にぎやかさはあるもののどこか優しく安心感のある空気が流れる妙福寺保育園。「仏教の教えが根付いているのでしょうか(笑)」と笑う園長先生の優しい雰囲気と、子どもたちと明るく笑い合う先生たち、そしてその中で育っていく子どもたちが作り上げたこの環境は、目に見えない魅力で溢れているようでした。


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