政府がヒヤリ・ハット事例集を公表

政府が事例集を作成するきっかけとなったのが、2021年の福岡県、2022年の静岡県と2年連続で起きた園バスでの置き去り死事故です。重大事故に至らなかったヒヤリ・ハット事例は、特に自治体への報告が求められている訳ではなく、保育現場での情報共有が十分に行われてきませんでした。二度と悲しい事故を繰り返さないよう、政府は各施設が事故の予防策を取るための参考資料として事例集の作成を行いました。
事例集の概要と目的
ヒヤリ・ハット事例集は、命の危険につながりかねない事例と、その改善策を全国の施設や職員が共有することで事故予防に役立てることを目的に作成されました。園内での研修に活用したり、行政や施設が独自のヒヤリ・ハット事例集を作成する際の参考にしたりすることが想定されています。ここでは、事例集の構成と内容について解説します。
事例の収集方法

- 認定こども園や幼稚園、保育所に依頼し、事例を収集
- 地方公共団体が公表しているヒヤリ・ハット事例集から事例を抽出
事例の内訳
事例集に掲載されている計100件の事例の内訳を紹介します。見落としの場面 | 件数 | 内訳 |
---|---|---|
送迎バス | 7件 | 降ろし忘れ2件、送り届ける際のミス1件、乗せ忘れ2件、乗せ間違い3件 |
園外保育 | 25件 | 置き去り6件、見失い・行方不明10件、列からの離脱3件、飛び出し6件 |
園内(室外)保育 | 29件 | 置き去り9件、閉じ込め2件、抜け出し10件、集団からの離脱3件、衝突2件、水場への転落1件、死角でのけいれん発症1件、やけど1件 |
園内(室内)保育 | 39件 | 置き去り6件、閉じ込め3件、見失い・行方不明6件、抜け出し19件、集団からの離脱3件、食物アレルギー1件、けが1件 |
合計 | 100件 | - |
事例のリスク分類

重大さのレベル | 傷害の程度 | 説明 |
---|---|---|
レベル0 | 実害なし | 間違ったことが子どもに実施される前に気づいた場合 |
レベル1 | 実害なし | 間違ったことが実施されたが、こどもには変化がなかった場合 |
レベル2 | 実害なし | 間違ったことが実施され、一時的な観察が必要となったり、安全確認のために検査が必要となったが、治療や処置の必要がなかった場合 |
レベル3 | 軽度 | 間違ったことが実施され、本来必要でなかった治療や処置(消毒、湿布、鎮痛剤投与等の軽微なもの)が必要となった場合 |
- レベル0:7件
- レベル1:90件
- レベル2:2件
- レベル3:1件
事例紹介/送迎バス

事例No.2/降ろし忘れ
遠足の帰り、園に到着。全員バスから降ろしたと思っていたが、保育室での点呼で1人いないことに気付く。バスの中を確認すると本児を発見。医療機関を受診したが、脱水などの症状はなかった。事例発生の背景
- バス遠足の実施日は通常のバス添乗職員ではなく、別の職員が添乗していた
- バスの中で寝てしまった園児が数名いたことで起こす対応に追われ、人数の誤認に繋がった
見落とし内容 | 降ろし忘れ |
年齢・性別 | 5歳5カ月の女の子 |
リスク分類 | 1 |
事例No.5/乗せ間違い
普段は園バスを利用している子。その日は保護者から「預かり保育を利用したい」と連絡があり、連絡を受けた保育士は連絡用のホワイトボードに記入した。しかし降園時にホワイトボードの確認をしなかったため、いつも通り子どもをバスに乗せて家の前まで送迎。保護者がいなかったためその場で連絡を取り、確認後バスに乗せたまま園に戻った。事例発生の背景
- 毎日決まって乗車している園児だったため、いつものように乗車させてしまった
- 引継ぎ用の連絡ボードの確認が不十分だった
見落とし内容 | 乗せ間違い |
年齢・性別 | 6歳0カ月の女の子 |
リスク分類 | 1 |
園バスでの事故について、発生までの条件と保育者が持つべき安全意識について解説したセミナーはこちら↓
事例紹介/園外保育

事例No.12/置き去り
1、2、3歳児17名と保育者3名がバギー2台と徒歩で公園へ。園に戻る際、リーダーは徒歩の子どもの人数確認を行い、バギーの子どもは他の職員が「全員いる」と口頭でリーダーに報告。最終の人数確認はしなかった。園に到着後、1人いないことに気付く。公園で警備員に保護されていた子どもを発見した。事例発生の背景
- 異年齢での室外活動で、役割分担や共通認識が欠けていた
- 新しい職員もいる中で、保育者も慣れていない散歩だった
- バギーに乗る子どもや手をつないで歩くこどもが往復で違っていた
見落とし内容 | 置き去り |
年齢 | 2歳6カ月 |
リスク分類 | 1 |
事例No.26/列からの離脱
3・4・5歳児38名が保育者4名で2グループに分かれ、異なるルートで公園から帰園。そのうちの1クループは公園から帰る際、異年齢児20人を2名の保育者で引率。列の前と後ろに保育者がつく。後ろの保育者が横断歩道の誘導をしていたが、2人の子どもが手に持っていたダンゴムシを逃がすため列を離れたことに気付かなかった。園に帰った後に人数確認をしながら入室していると、近隣の方より園児2名を保護しているとの通報があった。事例発生の背景
- 後ろで引率していた保育者が横断歩道の誘導をするが、異年齢の合同保育で3歳児のトラブルが多く、気を取られていた。
- 帰園時、直ぐに人数確認をしなかった。
- 転んで怪我をした園児がいたため、2グループは異なるルートで帰園した。
見落とし内容 | 列からの離脱 |
年齢 | 4歳 |
リスク分類 | 1 |
事例紹介/園内・室外保育

事例No.34/置き去り
2歳児13名と保育者3名が裏庭から園舎に戻るため、子どもたちは列に並ぶ。前方と後方に保育者が付いていたが、子ども同士のトラブルなど個別対応に気を取られ、1人いないことに気付かなかった。裏庭のシャッターを閉めて園舎に戻り、排泄にいったところ、本児がトイレに来ないため室内を捜索。シャッターを開けたところ裏庭の入り口で発見する。事例発生の背景
- 移動時の人数確認をしていなかった
- 裏庭であること、複数担任であることで安心感と油断があった
- 進級に向け、準備の時期で落ち着かない状況であった
- 十分な活動時間の確保ができていなかった
見落とし内容 | 置き去り |
年齢 | 2歳10カ月 |
リスク分類 | 1 |
事例No.42/閉じ込め
外の遊具倉庫に本児が閉じ込められていた。子どもが中にいることに気付かず、他の子どもが外から鍵を閉めていた。中にいた子どもが、中から鍵を開けられることに気付き、自力で開けて閉じ込められていたことを話してくれたので分かった。事例発生の背景
- 保育士が、倉庫が開け閉めされていた状況を確認していなかった
- 子どもが簡単に鍵をかけたりはずしたりできる構造の倉庫だった
見落とし内容 | 閉じ込め |
年齢 | - |
リスク分類 | 1 |
事例No.49/抜け出し
園庭で子どもと保育者が遊んでいた。一瞬目を離した隙に、この子が園門の柵の隙間(15×20cm間隔)から園外に出ているのを別の保育者が発見。すぐに門を開け、その子を園に連れてきた。事例発生の背景
- これまで、園門の柵をくぐり抜けるような事案がなかったため、リスクに気づか なかった。
- 一瞬、他の幼児に関わっている間に興味のある方に行った。門の柵を通り 抜けることは不可能と思っていたので、油断があった
見落とし内容 | 抜け出し |
年齢・性別 | 4歳1カ月の男の子 |
リスク分類 | 1 |
事例紹介/園内・室内保育

事例No.64/置き去り
4歳児クラスの園児と保育者がプールへ移動した際、担任はトイレに入っていた子どもに気付かなかった。たまたま通りかかった園長が保育室にいるその子を見つけ、どうしたのか聞くと、「トイレに入っている間にみんないなくなった」と話したことで発覚。事例発生の背景
- 担当保育者1名でプールの準備と、連絡帳に記載してあるプール遊びの可否の確認を行っている時にこの子が登園してきたので、対応に追われた。結果的に慌ただしい中での受入れとなり、本児の出席の入力を行っていなかった
- プール遊びを行うために移動する前に園児を集めたが人数確認をせず、目視で「全員集まった」と思い移動した。プール遊びの開始時間が迫っており、焦っていた
- 担任1名が休み、急遽保育補助1名も休みとなったため、普段はあまり担当しない当該保育者が4歳児クラス22名を担当することになった
- 当日の朝、急遽1人で担当することとなり、予定していた動きではなかった
見落とし内容 | 置き去り |
年齢・性別 | 4歳0カ月の女の子 |
リスク分類 | 1 |
事例No.68/閉じ込め
クラスでおもちゃの片付けを園児と行っていた。押し入れ(引き戸)を開けて、その中におもちゃのかごを片付けている間に背後から気付かないうちに子どもが入り込んでいた。そのまま気付かずドアを閉めたところ、中からドンドンと音がするので開けてみたら子どもがいることが分かった。事例発生の背景
- 玩具を片付けた場所以外を見ていなかった。かごを置くだけの時間の数秒ということで、子どもが入る想定が頭になかった。また、閉める際も確認しなかった。
- 押し入れには余裕があり、子どもが入れるスペースがあった。座ったり隠れていたりすれば分からない。たまたま入り口に出ようと振り返った方向と逆にこどもがいたと思われる。
見落とし内容 | 閉じ込め |
年齢・性別 | 1歳3カ月の女の子 |
リスク分類 | 1 |
事例No.80/抜け出し
お迎え時、母親に子どもを引き渡した後、そのまま母親と保育士が会話していた。いざ帰ろうとした際、子どもがいないことに気付く。すぐに敷地内外を捜索。園舎裏にある常設プール(3、4、5歳用)の脇で遊んでいる子どもを発見。プールへ続く扉(アコーディオンタイプ)の下をくぐって入ったようだった。事例発生の背景
- この園では、お迎え時に引き渡した子どもが園庭内で遊んでいるのを眺めながら保護者と保育士が会話をすることがあり、この日も「園庭で遊んでいるはず」という思い込みが保護者、保育士双方にあった。結果的に話し込んでいる最中の子どもの行動確認を怠ってしまった
- これまでお迎え後に園舎裏に行く園児はおらず、さらに園児が閉まっている扉(アコーディオンタイプ)の下を潜るという発想が職員にもなかった。加えて、当該プールは本児のクラスが使用するプールではなかったため、当該箇所の捜索が遅れてしまった
見落とし内容 | 抜け出し |
年齢・性別 | 2歳6カ月の女の子 |
リスク分類 | 1 |
この件を受け、この園ではお迎え時には保護者との会話が終わった後に園児を引き渡すことを改めて確認し、子どもがすり抜けられそうな箇所の再確認を行うなどの対策がとられました。
出典・参考:教育・保育施設等におけるヒヤリ・ハット事例集/子ども家庭庁(2023年3月)
事例集を参考に事故防止対策を
1件の重大事故の背後には、重大事故に至らなかった29件の些細な事故が隠れており、さらにその背後には300件のヒヤリ・ハットが隠れていると言われています。安全な保育を行うため、今回政府が公表した「ヒヤリ・ハット事例集」を参考に保育中の危険な事例や対策を把握し、事故の予防に努めましょう。【関連記事】
