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どう考える?先生が近づくと逃げてしまう4歳の女の子【理論編②】

どう考える?「逃げてしまう子」理論編パート2
言語聴覚士として長年児童発達支援に携わってきた原 哲也さんのコラムです。加配保育士さんへのアンケートで挙がった「気になる子」への関わり方について解説します。>>連載の記事一覧はこちら 

前回に引き続き、加配保育士さんから相談のあった「家ではお話をするのに、園ではひとこともお話をしない美知瑠ちゃんとの関係づくり」を考える「理論編」の2回目です。 
 
<前回の記事はこちら> 

子どもの3つの願いを叶える関わり方 

イラストにクレヨンで色をぬっているところ
前回は①尊重されたい ②安心したい ③信頼したい という子どもの3つの「願い」を叶える関わりが大切である、というお話をしました。 

では、この3つの願いを叶えるには、どのような関わり方が必要なのでしょうか。 

①「尊重されたい」という願いを叶える関わり 

例えば、 
  • うまく積み木を積めないけれど一生懸命積んでいる子どもに「手伝うよ」と言うのではなく、その子を「挑戦する人」として見守る。 
  • 塗り絵で花びらを茶色で塗った子どもに「花びらは茶色じゃないよ」と言うのではなく「今日は茶色で塗りたかったのね」と子どもの思いをくむ。 
このような関わり方です。 

②「安心したい」という願いを叶える関わり  

「安心」は、子どもが遊び、楽しみ、学ぶための前提になります。 
 
発達障害のある子の場合、感覚過敏のために安心できないでいることが多くあります。 感覚過敏以外にも、人の存在、自分に対する働きかけ、大きな声強い声などで不安になる子もいます。 
 
「安心できない」原因をみつけ、安心できるように環境を整えることが、「安心したい」という願いを叶える関わりです。 

③「信頼したい」という願いを叶える関わり  

笑顔の赤ちゃん
乳児は、空腹などの不快を「泣く」ことで訴え、大人が対応してくれて心地よくなる、という経験を重ねて「不快なときは大人が助けてくれる」という他者への信頼感(基本的信頼感)を獲得します。 
 
この基本的信頼感が、自分は安心・安全であるという感覚の基盤になります。 

子どもに信頼されることの大切さ  

子どもを抱っこする保育士
ところが発達障害のある子の場合、子どもの感覚過敏を大人が理解できず、そのために「不快を訴えてもわかってもらえず不快を取り除いてもらえない」、その結果、基本的信頼感を獲得できないことがあるのです。 
 
つまり、発達障害のある子は安心・安全の感覚が薄弱で、常に不安の中にいるわけで、だからこそ、特に発達障害のある子の場合、保育士が子どもに信頼されることは、とても大切なのです。 
 
では、子どもに信頼されるにはどういう関わりをしたらよいのか。 
  
まず、子どもに「信頼されること」は、非常に、大変に、重要だということを肝に銘じていただきたいのです。片付けや絵を描くことなど何かが「できる」ようになることの「前」に「信頼」です。 
 
子どもは「理解して対応してくれる人」を信頼します。 
 
これまでのコラムでお伝えしてきたことを含めて、様々な手段で子どもの行動の理解を深め、適切な工夫と対応をすることを、あきらめずに続けていきましょう。 
 
それが子どもの「信頼したい」という「願い」を叶える関わりです。 
 

子どもの「願い」が叶えられていない関わりの例 

ブロックで遊ぶ女の子
ところで、私は、26年以上にわたって自治体の委嘱を受けて幼稚園・保育園を訪問し、発達障害の子について800件を超える相談を受けてきました。 
 
巡回相談では保育士の関わり方も見せてもらいますが、時に「これは子どもの“願い”を叶える関わりではないなあ」と感じることがあります。 
 
それは、例えば次のような関わり方です。 

① 子どもに言うことを聞かせよう、子どもを変えようとする関わり方 

言うことを聞かせるために、保育士は大きな声で脅すような声がけをしたり、時に子どもの能力を越えた要求をしたりします。 
 
「いつまでも、お部屋のおもちゃのお片付けできないお友だちは、明日遊ばせないよ!」 
「昨日も言ったよね。先生なんて言ったっけ?先生がお話しする時は、お口は??チャック!」 
こんな感じです。 
 
保育士の要求に応えないと叱られるので、子どもは安心できません。 
 
安心させてくれない、大きな声で脅すようなことを言う相手を子どもは信頼しません。 
 
特に発達障害のある子の場合、保育士の要求がわからない、要求に応えられないことが多く、過大な要求による過負荷で子どもがパニックに陥ることがよくあります。 
 
その場合、子どもは、叫ぶ、泣く、先生に近づかない、ものを投げる、他児への暴力、噛みつく、どこかに居なくなる、隠れるなどの行動を示しがちです。 

②子どもに流される関わり方 

積み木で遊ぶ女の子
保育士は自信がなく、いつもビクビクして子どものご機嫌を損ねないように関わります。してよいこと・してはならないことを、はっきりと伝えません。 
 
子どもが他の子が遊んでいるおもちゃを奪ってしまっても、「●●ちゃんがこれ使いたいんだって ゴメンね」と元々おもちゃを持っていた子に保育士があやまり、当の「●●ちゃん」は奪ったおもちゃで遊び続ける。 
 
積み木がうまく積めないで崩れたとき、八つ当たりをして保育士の顔を叩いたり、髪の毛を引っ張ったりしても、「そんなに嫌だったの?かわいそう、かわいそう」とことばを返す。 
 
このようにしてよいことと悪いことがはっきり示されない、子どもの気分次第で基準が変わると、子どもは「何をしていいのか?」「してはいけないことは何なのか?」がわからなくなってしまい、不安になります。 
 
また、子どもは生活習慣や社会のルールを学ぶことができません。行動の指針を示してくれない大人を、子どもは信頼しません。 

何をするかがわからないことが不安につながる 

落ち込んでいる子ども
特に、発達障害のある子の場合、周りの様子から何となくルールを学ぶ、何となく今はこうするのだなと理解することがとても苦手です。 
 
「今はこうします」「これはいけません」とはっきり示されないと、自分が今どうしたらいいのかが本当にわかりません。 
 
そして「今何をするのか」「次に何をするか」が明確にわからないことは、発達障害のある子にとってとても不安なことです。だから安心できません。 子どもは、くるくる回る、どこかへふらふらっと出ていく、へらへら笑う、いたずらをする、奇声をあげるといった行動をとります。 
 
「①子どもに言うことを聞かせよう、子どもを変えようとする関わり方」「②子どもに流される関わり方」いずれの場合も、尊重されたい・安心したい・信頼したい、という子どもの「願い」は叶えられていません。 
 
その結果、ものを投げる、他児への暴力、どこかへふらふらっと出ていく、奇声をあげるなどの大人にとって「困った行動」が出てきます。 

保育士の関わり方が「困った行動」の原因になることも 

いじけている子ども
さて、みなさんの職場はどうでしょうか。巡回相談に行くと、程度の差はあれ①②いずれのタイプは結構多いです。 
  
巡回相談では子どもの「困った行動」へのアドバイスを求められます。 
 
以前、「子どもの「困った行動」の原因には、環境刺激(物理的、人的刺激、活動の難易度が子どもにマッチしているか、生活リズム、家庭環境等)がある」というお話をしました。  それと同時に、実は今回お話ししたような「保育士の関わり方」が「困った行動」の原因であることも往々にしてあるのです。 

次回のテーマ 

次回は、加配保育士さんから相談のあった「家ではお話をするのに、園ではひとこともお話をしない美知瑠ちゃんとの関係づくり」を考えるための理論編、3回目です。 
 
「①子どもに言うことを聞かせよう、子どもを変えようとする関わり方」「②子どもに流される関わり方」 
この2つのタイプの保育についてもう少し考えてみたいと思います。 
(次回は2022年12月下旬公開予定です) 

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原 哲也(はら てつや)

この記事を書いた人

原 哲也(はら てつや)

言語聴覚士・社会福祉士 一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事。児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」代表。1966年生まれ、千葉県出身。大学卒業後にカナダの障害者グループホーム勤務、東京の障害者施設職員勤務を経て、29歳から小児障害児リハビリテーション専門職として、長野県の病院や市区町で発達相談や障害児の巡回相談業務に携わる。『発達障害児の家族を幸せにする』を志に、全国を駆け回り、乳幼児期から青年期までの発達障害児と家族の応援をおこなっている
<WAKUWAKUすたじおHP>
http://www.waku-project.com/

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